タイに初上陸するヒップホップフェス「ローリング・ラウド」ってどんなフェス?その成り立ちとフェスとしての特徴を解説

ローリングラウド フェス

タイ・パタヤにて行われる「Rolling Loud Thailand」(ローリング・ラウド)の開催まであとわずか。ヘッドライナーにはトラヴィス・スコット、カーディB、クリス・ブラウン、他にも欧米やアジアのアーティストが並び、日本からもTERIYAKI BOYZ、Awich、JP THE WAVY、Repezen Foxxらが出演することで、SNSを中心に日本でも話題を集めているヒップホップフェスですが、Festival Lifeでは現地取材が決定!開催前に改めて「世界NO.1ヒップホップフェス」と評されるローリング・ラウドの成り立ちと特徴を、フェス目線でまとめてみました。

【Rolling Loud Thailand】4月タイ開催のローリング・ラウドのラインナップ発表で、カーディ・B、クリス・ブラウン、Awich、TERIYAKI BOYZら出演

ローリング・ラウドの成り立ち

ローリング・ラウドは、小学校の同級生であるマット・ジングラーとタリク・シェリフによって立ち上げられた。二人はもともと高校時代にコミュニティ内でヒップ・ホップを中心としたパーティーを企画していたが、当時彼らの地元のマイアミでは、「ULTRA Music Festival」が商業的に大成功を収め、EDMが盛況。その一方でマイアミのヒップ・ホップシーンにはULTRAのようなフェスが存在しないことを苦々しく思っていたそうだ。

二人は2010年ごろから職業としてイベントを企画・運営するようになり、フロリダで急成長するSoundCloudラップシーンのアーティストとともにイベントを拡大させていく。2013年の夏には、ケンドリック・ラマーやトラヴィス・スコットをフィーチャーしたイベントをマイアミで毎月開催するようになり、一定の成功を収めたが、フェスティバルという形でのシーンの拡大を狙い、二人の青年(当時26歳)はマイアミにてローリング・ラウドを初開催することとなる。

初回のローリング・ラウドは2015年2月にマイアミの屋内施設(ソーホー・スタジオ)で開催し、スクールボーイQ、ジューシーJといったアーティストが出演。大雨による会場の浸水などのトラブル(上記のドキュメンタリーも参照)もあったが、1DAYの開催ながら6,000人を動員した。翌年以降も拡大を続け、2017年にはダウンタウンのベイフロントパークでの開催となり、ケンドリック・ラマーやトラヴィス・スコットが出演。2018年からは、ハードロックスタジアムでの開催となり、3日間開催で約20万人を動員するビッグフェスに成長。さらに様々なエリアに展開することでさらに存在感を高め、ヒップホップシーンはもちろん、フェスシーンにおいても、唯一無二であり、非常に重要な存在になっている。

特徴① ヒップホップ特化の音楽フェス

ローリング・ラウドの最大の特徴は、ヒップホップ・カルチャーをベースにしたフェスであることだ。主催の二人は「ヒップホップのディズニー・ワールドのような場所を創ること」を目指していると発言しており、ヒップホップ・カルチャーをベースにした、アクティビティが多数楽しめる。そして何といってもヒップホップシーンにおいて重要なアーティストが並ぶラインナップは毎年注目を集める。開催地のローカルアーティストを盛り込むことにもこだわっており、現場では様々なコラボレーションが起こり、SNSでシェアされ、世界中に拡散していく。公式YouTubeにも数多くフル尺のライブ映像を残してくれるのもこのフェスの特徴と言えるだろう。

直近の開催では、2023年3月のカリフォルニアで、プレイボーイ・カーティ(上記動画)、フューチャーに加え、自身のフェスでの事故もあり、ここ2年はフェスへの出演がほとんどなかったトラヴィス・スコット(2022年にはフューチャーのゲストとして出演はあった)がヘッドライナーとして出演し、持ち時間より早く切り上げてステージを降りたことも話題となった。

ちなみにアメリカにはヒップホップにジャンルを絞ったフェスは多くあるが、ローリング・ラウドと同タイミングで盛り上がりを見せていたのは、アーティスト主催のフェスだった。2012年にスタートしたJAY-Zの「Made in America Festival」とタイラー・ザ・クリエイターの「キャンプ・フロッグ・グナウ」を筆頭に、最近だと2018年にスタートし、一気にその人気を爆発させたトラヴィス・スコット主催の「アストロ・ワールド」(2021年に死亡事故が起こり現在は開催されていない)、同じく2018年には、ポスト・マローンの「Posty Fest」、2019年にはファレル・ウィリアムスも地元バージニアでフェスを主催するなど、アーティストがフェスを主催することが一般的になり、かつ大流行を見せた。

しかしコロナ禍を挟んだこと、さらにアストロ・ワールドでの事故の影響もあり、その勢いは一旦落ち着きを見せ、反対にアーティスト主催でないローリング・ラウドがその勢いを加速させた。経済的なリスクや運営上のリスクを鑑みて、動きが鈍くならざるを得なかったアーティスト主催フェスに比べ、いち早くシーンを牽引する動きを見せたローリング・ラウドに多くのアーティストが乗っかったことが要因のひとつだと言えるだろう。その勢いのままに海外展開を加速させており、この流れはしならくは続きそうだ。ちなみに欧州発で、アーティスト主催でなく、他エリア展開に力を入れているのは、「Wireless Festival」というイギリス発のヒップホップフェス。こちらはローリング・ラウドに比べると多エリア展開はできていないが、まだローリング・ラウドが上陸していない中東での開催を2023年3月に実現させたこともあり、この2つのヒップホップフェスの動きは、世界のフェスシーンを語る上で欠かせないトピックだ。

特徴② ポジ/ネガ両方の話題を常に提供

話題のアーティストが集まるので、当然ここでしか見られないコラボやサプライズが話題になるのもローリング・ラウド。例えば、直近の2023年3月のカリフォルニア開催では、ドン・トリヴァーのステージにジャスティン・ビーバーがサプライズ出演し、観客を驚かせた。また2022年のニューヨーク開催では、ニッキー・ミナージュが女性ラッパーとして史上初のヘッドライナーとしてステージに立つなど、ヒップホップの歴史的な瞬間を生み出すことも。レジェンドと呼ばれるような大御所アーティストを起用するのではなく、新しいシーンに焦点を当てるというスタンスも開催当初から貫いているポリシーだと言えるし、だからこそ世間を驚かす話題を常に提供できるのだろう。

一方ポジティブなことばかりでなく、トラブルや事件などのネガティブなことが話題になることも多い。2021年は、コロナ禍が落ち着いたタイミングで多くのヒップホップアーティストが一堂に集結し、開催自体が話題になったが、そんな中、ダベイビーがステージ上で同性愛者らに対する差別発言を行い、大きな批判を浴びた。世界的なヒット曲となった「レヴィテイティング」のリミックスでコラボしたデュア・リパをはじめ、多くのアーティストが非難のコメントを出すなど、シーン全体を巻き込む事態になったことは記憶に新しい。また2022年には、キッド・カディのセット中に観客から複数の物が投げつけられ、パフォーマンスを中断してステージを去った映像が拡散され、話題となった。このように観客が興奮し問題となることも多く、2019年にマイアミでは、パフォーマンス中に観客を煽ったとされ、トラヴィス・スコットが訴えられたこともある。

個人的にローリング・ラウドにまつわる好きなエピソードは、ローリング・ラウドのリストバンドを模したタトゥーを腕に入れた熱狂的なファンに対して「永久入場」の権利を与えたというニュース。SNS上でのやりとりなので実際に永久に入場できるのかは定かではないが、こういったことも話題になるのがこのフェスの魅力のひとつ。(以下のツイートのリプライに公式が「For life 😂」と反応)

特徴③ マイアミから世界展開、アジア進出も

マイアミでスタートしたローリング・ラウドだが、アメリカ国内、さらには国外にもフランチャイズ開催を推し進めている。2017年のカリフォルニア開催を皮切りに、2019年にはニューヨーク、オーストラリア、コロナ禍を経た2022年にはポルトガル、オランダ、カナダに進出。またコロナ禍前からアジア進出も狙っており、2018年には東京でも「Rolling Loud Japan 2018 ~PRE-ROLL~」と題したイベントが行われ、ケイトラナダ、KOHH、kZmらが出演。当時は日本開催の期待も高まったが、実現には至らなかった。2019年には香港での開催が予定されていたが実現せず、今回のタイ開催がアジアでの本格的な展開の一歩となる。

日本がアジア初開催の場所として選ばれなかったことは残念だが、世界的なトレンドにもなっているフェスをアジアで体験できることは喜ばしいことであることに違いはない。またタイは若い世代の人口が多く、音楽フェスシーンも盛り上がりを見せるアジアの国のひとつ。ローリング・ラウドのポリシーでもあるローカルのアーティストを反映したラインナップも魅力的だし、「アジア初開催」ということで、日本をはじめ、東アジア、東南アジアのアーティストが一同に介す貴重な機会でもある。アジアを代表するアーティストとヒップホップ発祥の国であるアメリカのアーティストが同じステージに並ぶという、これまでアジアに存在しなかったグローバルなヒップホップのフェスの誕生は、2023年のフェスシーンにおいて、さらには2020年代のアジアの音楽シーンにおいてもターニングポイントになるだろう。

ローリング・ラウドは、公式SNSやYouTubeなどでライブ動画などが即時公開されることが多いので、開催期間中はぜひチェックしてみてください。Festival Lifeも現地取材を実施予定なので会場レポートや来場者スナップもお楽しみに!

Text:Namiko Yamazoe/ Shotaro Tsuda
Reference:Yahoo! / Forbes
Edit:津田昌太朗

Rolling Loud Thailand
日程:2023年4月13(木)〜15日(土)
会場:タイ・パタヤ
公式サイト

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