フェス主催者インタビュー|スティーブン・グリーン(RockCorps主催)

4時間のボランティア活動で汗を流すと、豪華アーティストのライブイベントに行ける。そんなソーシャルグッドのプラットフォームとしてのフェスティバル「RockCorps」を2005年に米国で立ち上げた創立者であり現在も主催者であるStephen Greene(スティーブン・グリーン)氏にインタビュー。日本での「RockCorps」のスタート地点でもある福島で前日に自身もボランティア活動をしていたというスティーブン氏に、ソーシャルな活動やコミュニティへの意識と、音楽フェスティバルの役割が一致するヒントを中心に、お話を伺いました。

RockCorps主催 / スティーブン・グリーン


-まずは、アメリカで「RockCorps」がスタートしたきっかけからお話を伺えればと思います。

私の友人が以前からアメリカのコロラドで、ボランティアをした人にコンサートチケットを配るという事業を行っていました。しかし、2011年のアメリカ同時多発テロを受けて、これをより大きなスケールで実施しようと思ったのがきっかけです。2011年9月11日のあの酷い出来事の後に、音楽はとても必要とされていると感じていたし、そもそもこのモデルは、ボランティアをすることで人と人との繋がりが生まれ、同じ感情を共有しながらどんどん輪を広げていくというもの。これは、人と人を結びつけるのにとても有効だと思いました。

2001年から2005年の間に視察と企画を進め、スポンサー、そして協働するNPO団体など事業者を集めるために準備をし「RockCorps」として、2005年にアメリカでスタートしました。フェスティバルというのは通常、チケットセールス、物販、飲食店、そしてスポンサーのおかげで成り立っているものですが、「RockCorps」のモデルではスポンサーのお金のみ、売り上げ的なものは出ません。私たちは、この「RockCorps」というブランドの肝ともいえる“人々が関わり合うための大きなプラットフォーム”としての新しいフェスティバルを、新しい方法で作る必要があると考え、形にしました。

-どのような仕組みになっているのかあらためておしえていただけますか?

このモデルでは、ライブに出演するアーティスト、NPO団体、スポンサー、そして参加者という大きく分けると4つのステークホルダーが存在しますが、すべてにとってWin-Win-Win-Winのモデルを作りました。アーティストは、出演料もある上でさらに社会貢献もできる。そしてオーディエンスは無料でライブを堪能できる。NPO団体は、第三者の力により新たなボランティアリソースを獲られる。スポンサーは、非常にユニークな形でプロモーションができる、という意味ですね。

ⓒRockCorps supported by JT

「RockCorps」の最初の段階で大切にしたのは、エンタテインメントの中心で、“ソーシャルグッド”というものを広告する、ということでもありました。また、ソーシャルグッド(社会貢献)的なことをしている団体は、たくさん存在しているのでそれらをひとつに束ねようと。

-911以降のアメリカではそういった動きがすぐに盛んになったのでしょうか?

いえ、直後はそこまで目立ったものはありませんでした。というのも、当時、政治家はリーダーシップの発揮の仕方を誤っていたので……。彼らは「心配ないです。みなさんこれまで通り、日常の生活へ戻りましょう。仕事へ行き、余暇を楽しみましょう」と発信していて、市民はアフガニスタンの戦争をテレビで観せられながらも、社会貢献の意識や実際の機会を得ることはできていなかったと思います。

そしてそれと同様のことが、2011年3月11日以降の日本でも起きていたのでは、と感じます。被害のあった街の復旧・復興、原発、放射能問題……ああいった大災害を、テレビ番組で観ているものの、政府(行政)は、個人ができることを示しはしない。でもそれって、人間的なやり方ではないんですよね。人類というのは何か困難を抱えている状況に接したら「参加したい」「何かお互いのために力になれることはないだろうか」という意思を持つものだろうと僕は思っています。でも、なかなかそれに対応する開かれたチャンスがなかった。「RockCorps」が、日本の福島でも受容された理由はそこだと思います。初めてボランティアに参加した人の多くが「こうやって何か人のために役にたつことをさせてもらって嬉しい。きっかけをありがとう」という言葉をくれるのが印象的です。

ⓒRockCorps supported by JT

-「RockCorps」をスタートし、規模感が大きくなり、アメリカ以外の国にも展開するようになるにつれて抱えた課題などはありましたか?

アメリカで「RockCorps」を始めてみるととてもポジティブな反応をもらえたし評判もよく、ニューヨークに続いてアトランタ、ロサンゼルスでも開催しました。その過程で「これはアメリカに限ったことではなく、全世界的に通用することなことなのではないか」とも思えるようになってきて。しかし、僕らはそれまでグローバルなビジネスを展開したことがなかったので、まずはニューヨークと距離的にも近いイギリス、ロンドンで、2008年から始めることになりました。アメリカとUKならば、言語も同じですしね。

そこからさらにいくつかの国で「RockCorps」を開催できました。とはいえ、新しい国や文化に入って行こうとする際には「あなたの国とうちの国はとても状況が異なるし、そうすぐにうまくはいかないんじゃないかと思いますよ」と大抵の場合、最初は批判的なことを言われます。たしかに表面上は、そうです。でも、人間っていうのは、そういうものを越えて“人間として共有しているもの”があると思っているんですよね。

「音楽が好きで、自分の住む場所や友人、家族を愛する」という人間らしさのようなものは普遍と、僕は信じているので。それを地道に伝えていくのはもちろん大変なことではありますが。

-スティーブンさんご自身は911よりも以前から、ソーシャルグッドや社会貢献といった分野に関心を持たれていたのですか?

そうですね、僕はこれまで人生でボランティアもいろいろしてきたし、NGOで働いたりもしてきました。快適であまり苦労のない場所に生まれ、教育も受けられている私たちのような人々というのは、たまたまラッキーくじに当たっただけに過ぎないと思ってるんです。どこで生まれるか、そういう機会をくれるような両親のもとに生まれるかも、私たちは選べなかったわけですから。なので、そういう人たちの果たすべき役割というのは、生まれ持った“ギフト”を他者を助けるために使うことだと思っているんです。少なくとも、他者の子どものことも、自分の子どもと同じように気にかけるべきだと思いますしね。

この近現代の資本主義社会以前には、人類はともに暮らし、密接につながって、もっとお互いの子どもの面倒を見ていた時代だってありました。他の人のことも当然のように考えるという機能が失われつつある、ともいえるのかもしれない。暮らしやすい場所で生活出来るという特権を与えられた自分のような人たちは、他者のことも気にかけ、長期的な視野に立って物事を考える義務があると思うんですよ。

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