アジアのフェスの最前線を体感!青葉市子、ルナ・リーらも出演した女性主体のシンガポールのフェスをレポート【The Alex Blake Charlie Sessions】

昨年2022年は音楽フェスティバルが息を吹き返した1年だった。世界的にはコーチェラやグラストンベリーといった大型フェスが3年ぶりの復活を果たし、日本国内でも(制限はあるものの)いわゆる4大フェスすべてが開催された。そんな中で日本以外のアジア各国のフェスも活況を取り戻している。しかも単にコロナ禍以前の状況に戻るだけでなく、アジアのフェス/音楽シーンは、K-POPの隆盛や88risingの躍進にも表されるように、”トレンド”として、さらに人口ボーナスが各国で起きている”市場”として、世界からの注目が急激に高まっている。実際、ロラパルーザ(1月インド)やローリング・ラウド(4月タイ)といった欧米発の人気フェスが続々とアジア上陸を果たし、今後もフェスシーンは盛り上がりを見せていくことは間違いないし、そういったメジャーなものが台頭すると同時に、しっかりとローカルでコンセプトを打ち出したフェスが各地で生まれているのもアジアのフェスシーンの面白いところ。今回はそんな状況の中において、まだ生まれたばかりではあるが、明確なコンセプトを掲げ、既存のフェスシーンに一石を投じるシンガポールの新進気鋭のフェスティバル「The Alex Blake Charlie Sessions」(通称、ABC Sessions)の現地レポートをお届けする。

徐々に日本から海外にも行きやすい状況にもなってきているということもあり、記事後半では日本から参加する際のアクセスや宿泊情報、滞在中に立ち寄ったレコードショップやナイトクラブなどの音楽スポットも紹介しているので、今後シンガポールのフェス参加予定の方はぜひチェックしてみてください。

後編:ABC Sessions参加するには?

The Alex Blake Charlie Sessionsとは?

「女性アーティストは今日最高の音楽を生み出している」という信念のもと、2019年にシンガポールで初開催された音楽フェス「The Alex Blake Charlie Sessions」(通称、ABC Sessions)。第1回目(2019年)は、Stella Donnelly 、Goat Girl、Kero Kero Bonitoら、様々なジャンルで活躍する女性アーティストが集った。コロナ禍で2年間の休止を経て、今年2回目の開催を迎えた2023年は、初回と同様の女性主体のラインナップで、前回同様もともと発電所として使われていた廃倉庫で2月末に開催された。

この場所が非常にユニークで、本フェスを主催するクリエイティブ集団「24OWLS」が、国から期間限定でリースしている施設とのこと。自分たちでイベントや撮影場所として使えるようにリノベーションし、普段は仕事場としても活用しており、今回も自分たちが中心となってフェス会場をセットアップしたと、主催者のマーシャ氏はフェス開催中に語ってくれた。ちなみにこの「24OWLS」は、数年前までシンガポールでも開催されていた3カ国(オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール)周遊型のフェス「Laneway Festival」の運営チームでもあったということもあり、シンガポール開催を8年にわたり支えてきたフェス制作のスペシャリスト集団だ。

そんなチームが、自らが作り込んだユニークな場所で、週末だけでなく平日から5日間にわたり、女性アーティストのアート作品展示や女性による女性についての映画上映などを行い、金曜日には女性DJによる前夜祭、メインとなる土曜日には、欧米のみならずアジア各国からシーンを牽引する若手アーティストを招聘し、世界的にも珍しいコンセプトを掲げたフェスを復活させた。

フェスとジェンダーの歴史。女性オンリーのラインナップについて

「ABC Sessions」の最大の特徴は、なんといってもそのコンセプトにある。女性主体のラインナップを揃え、さらに音楽だけでなく、映画や書籍、アートにいたるまで、女性にフォーカスしたコンテンツが揃い、まさに女性を祝福するような空間が作り上げられていた。主催者のマーシャ・タン自身も女性で、初回開催時(2019年)のインタビューでは、「男女平等と多様な表現に対する世界的な意識が高まり」や「音楽フェスシーンにおいての女性アーティスト/スタッフのポジションの低さ」について言及しており、そういったことがこのフェスを立ち上げるモチベーションになったそうだ。

ちょうどコロナ禍前のタイミングは欧米の音楽フェスシーンにおいて、ラインナップのジェンダーイコーリティが議題に上がることが多く、出演アーティストのジェンダーバランスを50対50にしようという国際的なキャンペーンが行われ、世界各国のフェスが団結するような動きも起こっていた。実際にアイスランドの「Airwaves」やスペインの「Primavera Sound」がイコーリティを達成したラインナップを実現し、メディアでも大きく取り上げられた。この問題に関しては、アーティスト自ら発言することも多く、例えばThe 1975のマシュー ・ヒーリーから「ジェンダーイコーリティが達成されているフェスにしか出演しない」という趣旨の発言があったりと、音楽フェスシーン全体を巻き込んだ流れになっていった。そういったことが積み重なり、2019年といえば、まさに様々なフェスがアクションを起こし始めたタイミングだったわけだが、日本を含むアジア各国のフェスは、欧米に比べると、そこまでダイナミックにラインナップの方針を変えたり、コンセプトを打ち出したりというフェスは多くなかった。開催直後に主催者に行ったインタビューでは「直接的にそういった動きを意識したわけでないが、世界各地の変化はそれぞれに進化していくべき。ルールなんていらないし、オーガナイザーも自然に意識できるようになればいい」と語ってくれた。そういった背景のもと、既存の音楽シーン/フェスシーンに新しい提案を投げかけるようなコンセプトを掲げ、「ABC Sessions」が立ち上がることになった。

ちなみに、”女性のみのラインナップ”で言うと、古くはアメリカの「リリス・フェア」がある。カナダ人アーティストのサラ・マクラクランが発起人となって行われた女性アーティストによる音楽フェスで、1997年から1999年にかけてアメリカやカナダを巡回し、成功を収めた。当時の音楽業界における女性アーティストの扱いに不満を持ったことがフェス開催の動機になっており、シェリル・クロウ、フィオナ・アップル、エリカ・バドゥといった大物もその考えに賛同し、フェス出演を果たした。2010年には11年ぶりに開催され、ジャネール・モネイ、メアリーJブライジらが名前を並べた。

一方ヨーロッパでは、また別の角度から”女性”に焦点を当てたフェスが行われたことがある前述の「リリス・フェア」や今回レポートする「ABC Sessions」とは成り立ちや背景が違うが、2018年にスウェーデンで開催された「Statement Festival」はステージも観客にも男性がいないフェスとして話題になった。それ以前にスウェーデン国内の音楽フェスで性的暴行事件が増加していたことを受けて、大規模フェスが中止となり、2018年に新しく立ち上がったのが、「Statement Festival」だった。このフェスは、女性、トランスジェンダー、ノン・バイナリーのみが入場可能、つまり「男性入場禁止」というルールのフェスだったわけだが、結果的にこのフェスは、男性が参加できない点を理由に裁判で有罪判決が出される事態となり、現在はフェスとしては開催されていない。

このように「女性とフェス」という視点だけでも、いくつものトピックや歴史があるわけだが、前回2019年の第1回で完結せず、コロナ禍という苦境を乗り越えて開催された今年の「ABC Sessions」は、音楽フェスシーン全体においてももちろん、とりわけアジアのフェスシーンにおいて非常に重要なトピックだったと言えるだろう。そんなフェスで実際に体験してきたライブや会場の様子を写真とともに振り返っていきたい。

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アジアに縁のある女性アーティストが続々登場

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