【永井純一コラム#4】 フェスと地域社会の関係 | フェスの地域貢献について

Festival Lifeでは、2021年春に関西国際大学・永井純一准教授と共同で、「地域とフェスについての関係」についての調査をフェス主催者に対して実施しました。本コラムでは複数回にわたり、調査のデータを参考にしながら、これからのフェスと地域の関係性について深掘りしてもらいます。(Photo:hoshioto)

永井純一教授コメント

関西国際大学の永井純一ともうします。フェスティバルライフでは過去にもコラムやポッドキャストなどでお世話になっています。今回は、調査報告コラムの締め括りとして、「フェスが地域社会に与える影響」についてみていきたいと思います。

ポストコロナ時代のフェスはどうなる?フェスが社会のためにできること(FJPodcastゲスト:永井純一)

フェスの地域貢献

フェスと地域社会の関係について、真っ先に経済効果を思い浮かべる人は少なくないのではないでしょうか。チケット代や交通費・宿泊費・飲食費からグッズ代まで参加者にとってフェスは一大消費イベントですが、その分地域への影響も大きいです。一例を挙げると、2015年に開催されたフジロックの経済波及効果は総額151億6800万円(*1)だそうです。規模が大きいフェスで宿泊が絡むほど経済効果が大きいのはいうまでもないでしょう。もちろんフェスが地域にもたらすのはお金だけではありません。近年は、観光資源、地域振興や活性化といったまちづくりの観点からも注目を集めています。ここではフェスの主催者による自己評価をもとに、彼らが地域貢献について、どのような考えを持っているのかを紹介します。

上の図は「自分たちが行なった音楽フェスティバルが、次にあげるような影響を地域社会に与えていると考えますか」という質問に対する回答をまとめたものです。多くの項目で肯定的な回答が寄せられています。経済的な貢献については「移動,宿泊に伴う経済の活性化」(92.1%(*2))、「商店や飲食店など地域経済の活性化」(92.1%)に関しては肯定的な評価が9割を「地元の業者を使うなど雇用を生み出している」(81.6%)も8割を上回っています。やはり経済的な貢献は主催者、にとって重要な関心事として意識されていることがわかります。個人的には飲食に地元の出店があると、つい食べてしまいます。

その他には地域の知名度やイメージの向上に一役買っていることがうかがえます。「地域のイメージアップ」(93.0%)「地元の人の地域への愛着を高める」(85.1%)はいずれも高い数字となっています。この2つの項目については特に「貢献している」の数値が高く、主催者の関心の高さを物語っているといえそうです。「OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL」や「朝霧JAM」のように地名やその土地のシンボルが名前に入ったフェスも少なくありません。回数を重ねることでフェスと地域イメージの結びつきは強くなます。フェスの成功が都市のブランド化に貢献するといえるでしょう。

今後の伸びしろは、長期的な貢献

「その地域を繰り返し訪れる人の増加」も数値が高く、肯定的な評価の合計は88.6%になります。いわゆる関係人口の増加は、私の調査においても、行政関係者がしばしば口にする課題でした。そもそも長く続いているフェスにはリピーターが多くこれにフェスは一定の貢献を果たしていると言えそうです。同じ土地を繰り返し訪れることでその土地に愛着を持つようになったり、フェスの時には行けなかった飲食店をあらためて訪れた経験は、このサイトを見るフェス好きのみなさんにもあるのではないでしょうか。

興味深いのは「一般市民の表現の場を提供している」(68.4%)と「地域団体や企業のPRの場を提供」(71.9%)が比較的高い数値になっている点です。「貢献している」と積極的な評価の数値こそ高くないものの、そういった場としてフェスが活用されていることがうかがえます。
メジャーなフェスではナショナルブランドの企業ブースでサンプルやグッズをもらうことがありますが、ローカルフェスでは地元住民による郷土料理やクラフトの出店など面白い企画がたくさんあります。最近はこどもたちによる写真撮影や取材のワークショップを企画するフェスも増えており、教育や学習の場としても発展可能性があります。こうした企画を通じて住民が積極的にコミットすることで、フェスは地元の人たちにとっての表現の場であり、楽しみの場となっていきます。

最後に評価が低かった項目もみておきましょう。経済や観光、イメージアップなどわかりやすい影響の一方で、「地域の新規出店や個人事業主の開業に貢献」「移住者の増加」など長期的な影響に関する項目は比較的低い数値となっており,「わからない・意識したことがない」の割合も多くなっています。こういった論点については、そもそも認識も低く、まだまだ議論の余地がありそうです。むしろそれは、フェスの「伸び代」や「可能性」といってもいいかもしれません。

以上、簡単にではありますが、4回にわたってデータをもとにフェスと地域社会の関係について考えてきました。コロナ禍において、残念なことにフェスは時々社会的な批判の目を向けられるようになってしまいました。それはフェスの意義や魅力が十分に伝わっていなかったからかもしれません。日本でたくさんのフェスが行われるようになって20年以上が経ちます。その中には、同じ場所で長く続いているものがたくさんあります。それらはなぜ続けることができたのでしょうか。フェスが地域社会に与える長期的な影響については、わかっていないことが多くあります。今後とも会場に足を運びつつ、調べ、考えていきたいと思います。

*1 江頭満正 2018「ロックフェスティバルの経済効果と消費者行動 : フジロックを事例に」『尚美学園大学芸術情報研究』尚美学園大学芸術情報学部
*2 ( )内の数値はいずれも「貢献している」と「どちらかといえば貢献している」の合計

著者:永井純一
関西国際大学現代社会学部准教授。博士(社会学)。国内外のフェスをめぐり、社会との関係を研究する。著書に『ロックフェスの社会学——個人化社会における祝祭をめぐって』(2016、ミネルヴァ書房)、『私たちは洋楽とどう向き合ってきたのか』(共著、2019、花伝社)、『音楽化社会の現在』(共著、2019、新曜社)、『コロナ禍のライブをめぐる調査レポート[聴衆・観客編]』(共著、2021、日本ポピュラー音楽学会)など。

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