2024年に25周年を迎え、今や四国を代表する夏フェスとして確固たる地位を築いた「MONSTER baSH」(モンスターバッシュ)。
今年も、aiko、あいみょん、UVERworld、Saucy Dog、四星球、SUPER BEAVER、マキシマム ザ ホルモン、MAN WITH A MISSION、RIP SLYMEといった多彩なラインナップが、8月23日(土)・24日(日)の二日間、香川・国営讃岐まんのう公園に集う。
今回は、そんなモンスターバッシュを長年にわたり支えてきたプロデューサー・定家崇嗣さん(株式会社デューク)に、これまでの歩みとこれからの展望についてじっくり語ってもらった。
地元アーティストにスポットライトを
―まずは昨年25周年の節目を迎えたモンスターバッシュ(以下モンバス)の歴史からお聞かせください。
モンバスが始まったのが2000年、当時はまだ“フェス”という言葉も今ほど定着していない頃でした。最初は香川県にある「レオマワールド」というローカルな遊園地でロックイベントとしてスタートしました。僕自身は愛媛県で学生で、2003年からアルバイトとしてお手伝いしていました。
―最初は遊園地で開催されていたんですね。
そうなんです。ただ、2年目にレオマワールドさんの都合で会場が使えなくなってしまい、代替会場として「アスティとくしま」という徳島のアリーナで開催しました。そしてその翌年(2002年)がモンバスの転機とも言える年だったのですが、Dragon Ashやケツメイシといった人気アーティストが出演してくれることになり、大きな会場が必要になった。そんなときにちょうど整備されたばかりの「国営讃岐まんのう公園」を使わせてもらえることになり、ここで“野外フェス”としてのスタイルが確立していきました。最初は1ステージでしたが、2003年からは2ステージ体制にして、四国のローカルバンドにも出てもらうために「龍神ステージ」を作りました。
―ステージ名に「空海」や「龍神」といった地元にゆかりのある言葉が使われているのも印象的です。
空海は四国にゆかりの深い存在なので、そこからメインステージを「空海」と名付けました。「龍神ステージ」は、会場内の「龍神池」という池に由来しています。四国で活動する地元バンド、地元の音楽シーンを応援したいという思いで始めたステージなんです。
―そういった地元密着の姿勢は、今のモンバスにも連なる大きな特徴だと感じます。
フェスの知名度も上がっていく中で、「出たい」と言ってくれるアーティストも徐々に増えていきました。2ステージのスタイルで10年ほどやった後、「ステージ茶堂」というアコースティックの弾き語りステージを作ったり、公園自体の整備事業とともに、ステージやエリアもどんどん増えて、今では5ステージ体制になっていますが、僕らがずっと大事にしているのは「四国出身、四国在住のアーティストをできる限り出演させたい」ということ。全国的に有名なアーティストからのオファーもあったりしますが、そこをあえて断ることもあります。その理由は、地元勢に少しでも多く出演してもらうため。フェスとしては地元で頑張っているアーティストを応援するという姿勢を大事にしています。東京や大阪で500人集めるアーティストより、四国で100人を集めるアーティストを応援したいという思いがずっとあるので、地元贔屓と言われても全然OKという感じです(笑)
―モンバスとともに大きくなった地元アーティストも多くいるように思います。
モンバスの常連である四星球やマキシマム ザ ホルモン(vo.ダイスケはんが香川県出身)をはじめ、チャットモンチー、Superfly、米津玄師といった四国に縁のあるアーティストには出てもらっているし、最近だとLONGMAN、古墳シスターズ、八生など、25年間、地元贔屓のスタイルは変えていないです。八生さんの話だと、モンバスに出ていることを仕事先のスタッフも知らなかったそうなのですが、地元で地道に活動している才能あるアーティストにこそスポットライトを当てたいんです。
—そういうアーティストが地元に希望を与える存在になると。
まさに。昔は音楽コンテストで優勝しないとアーティストになるという夢はかなわなかったけど、今はYouTubeやTikTokもあるし、自分自身の力で世界に音楽を届けることができる。でも、「地元のアーティストがモンバスに出ている」という事実が、若いミュージシャンの目標であったり、指標になってくれるのはやっぱり大きい。モンバスがアーティストにとっての希望になっていたら嬉しいし、さらに出演してくれるアーティスト以外の部分でも、地元に貢献できたらと思っています。働いてくれるスタッフとか、関係者とか、サポートしてくれる企業なども、地元優先というか、しっかり”地元贔屓”するフェスでありたいというのが我々のスタンスです。
―25年の歴史の中で地元にとってもなくてはならないお祭りになっているように思います。
フェス開催中は香川県内のアルバイトが全然集まらないということもよく聞きます。実際お店を閉めるところもあります。高松市内のホテルは即満室、香川全体、そして岡山や隣県にも波及していて、経済効果は約50億円という試算もあるそうです。そういった大きな数字の話もあるけれど、実際に高松市内商店街の店長から「モンバス期間は売り上げが上がって、ありがとう」って言われたり、普段と違う大変な週末になっていると思うけど、駅や空港の関係者さんから感謝の声が届いたりと、25年かけて、少しずつ街にとっての”風物詩”になれているのかなと思います。
フェス同士は「競争」より「連携」の時代へ
—25年の歴史の中で、大きく変化したことのひとつに、ここ数年の”暑さ”もあると思います。
本当にそれは大きな課題になっています。熱中症対策は毎年慎重にやっていますが、アーティストからも「この時期はもう限界…」という声も聞きます。”夏フェス”という言葉自体、今後なくなっていく可能性すらあると思っています。そういったことを踏まえて、全国のフェス主催者が集まる『夏フェス研究会』なるものがあって、細かな熱中症対策の事例とか、この規模なら看護師は最低何人必要だとか、そういったことを共有してお客さんが少しでも安心してフェスを楽しめるように、日本全国のエリアの現場スタッフ同士で知恵を出し合っています。
—大規模フェス同士の連携は心強いですね。九州や中国地方、開催時期が重なるフェスもありますが、そういったフェスとも連携はとっているのでしょうか?出演オファーがバッティングするみたいなこともあるかと。
もちろんそれはありますよ。でも実はうまく連携できているんですよね。たとえば長崎のFM局さん(Sky Jamboree主催)から「この日程でモンバスに出演しないアーティストがいたら紹介してください」って言われたり、うちが土曜に出演してもらって、日曜はそちらに、みたいなやり取りが結構あるんです。昔は競合というか、アーティストを取り合うみたいな空気もあったのかもしれませんが、今は“どうやってアーティストが効率よく回れるか”を一緒に考える時代。スケジュールをずらしたり、ステージの出演順を調整したり、そういう協力をしながら成り立っています。
—お互いのフェスが地元でしっかりファンを抱えているから成り立つんでしょうね。
そう思います。地元のお客さんがちゃんといるフェスは、他と食い合わない。だから自然とうまく回るんです。逆に地元に根ざしてないと、同じ客を取り合うだけになってしまう。そういうことからも、コロナ禍以降は特に、フェス同士が連携する時代に入ったのかなと。