YonYon×エバンズ亜莉沙 | 都市型フェスSYNCHRONICITYが実践するサステナブルな取り組みとは?

グッズTシャツを通して伝えたいメッセージ

エバンズ:続いての取り組みは「衣類の廃棄削減」です。フェスや音楽イベントというのは必ずグッズを作って販売しますが、お客さんとしては記念に残る貴重なものなので、廃止するのが難しいというのはお分かりいただけるかと思います。これまでも生産工程の工夫や、Tシャツのボディにオーガニック・コットンを使ったりしてきましたが、今回は20周年記念のTシャツに「リサイクルポリエステル」を採用しました。また、終わってしまったフェスのTシャツは「デッドストック」という呼び名のとおり、溜まってしまうとそれもゴミになってしまいます。ただ見方を変えたら、ファンの中には、十年前のフェスTシャツが手に入ったら嬉しい方もいらっしゃるのではないかと思いました。SYNCHRONICITYも20年間の中で、これまで作ってきたTシャツの在庫が少なからずあったため、今回はそちらを2,000円で販売することにしました。

YonYon:過去のSYNCHRONICITYのTシャツが2,000円!お値打ちですね。

エバンズ:安いですよね。過去回のTシャツをそのまま購入いただくだけでもいいですし、さらにはそのTシャツに今年の20周年ロゴをシルクスクリーンでプリントしていただけるブースが隣に設置されているので、過去のTシャツをお安く買っていただいて、さらに今年のデザインを入れることもできます。

津田:自分が初めてSYNCHRONICITYに行った年のTシャツを買い、それに20周年のロゴをプリントする、といった体験も可能ですね。

エバンズ:そうなんです。私も今着ているスタッフTシャツに、赤で20周年のロゴを自分でプリントしています。

YonYon:過去開催のTシャツが買えて、20周年のプリントもできて、自分でもシルクスクリーン体験ができて。思い出が三つに増えますね。

津田:確かにそうですね。もちろん購入するだけでも十分思い出にはなりますが、さらに何か一つアクションを加えることによって、もしかしたら廃棄されてしまうはずだったものが、違うあたらしい価値になるというのは、これまであまりなかった考え方ではないでしょうか?

エバンズ:ゴミというのは自然界には存在しておらず、人間がゴミと決めた瞬間に物はゴミになるんです。誰かにとってはゴミでも、ほかの誰かにとっては宝物かもしれないものが、もしかするとこの世の中にはたくさんあるのではないでしょうか。今日も「この時のこのデザインのTシャツありませんか??」って写真を持ってくるお客さんがいらして、本当にやってよかったと思いました。

津田:その年行けなかったのか、買いそびれたとか。そういったあたらしい価値の提供ですね。グッズというのはアーティストやフェスにとっては大事な収入源である一方で、例えば「2025」とプリントされたグッズは、2026年にはもう販売できなくなってしまうんですよね。特にフェスの場合は大量に生産する分、その廃棄の量も真剣な問題として考えるべきだと思ってます。アーティストとしても、グッズは頻繁に制作されているかと思いますが、その中で意識していることなどはありますか?

YonYon:環境への配慮も含め生産量は限定し、ちゃんと売り切れる分だけ作る、というのは意識しています。もちろん、売り切れてしまって手に入らないお客さんも出てきてしまうので、これは非常に難しいところなんですが。

エバンズ:難しいですよね。やっぱり開催の年月日とか出演アーティストの名前が入ったグッズというのはほしいお客さんも多いと思います。SYNCHRONICITYでは、以前から事前注文の受付をすることによって、ある程度発注数を計算しやすくして、できるだけロスをなくすようにしています。

津田:ロスをなくすというのは環境的にはもちろん、ビジネスとしての観点からもメリットがありますよね。私も年中、世界中のフェスに行った先で、グッズを買うのが大好きなんですが、同時に罪悪感を感じることもあります。去年ノルウェーのフェスに行った際、物販に行ったら、背中にラインナップがたくさん並んでいるような、いわゆる「フェスT」がなかったんです。スタッフさんに「ないんですか?」と聞いたところ、まず白いTシャツを買って、それにシルクスクリーンでプリントをしてくれるような仕様になっていたんです。この方法であれば、売れ残っても白いTシャツだけなので、翌年のフェスや別のイベントで使うことができますよね。たしかに対応いただくスタッフの手間と時間はかかる分、若干割高にはなるんですが、そのフェスからのメッセージは強く伝わりました。

エバンズ:素敵ですね。SYNCHRONICITYでも、そうしたメッセージを伝えられればと願っています。ただ、こうしたリサイクル素材を使おうとすると、やはり原価が上がってしまうという課題はあります。また、先ほどの白ボディにシルクスクリーンの取り組みも魅力的ですが、長い待機列を作ってしまった結果、観たかったライブに間に合わないお客さんが出てしまうことはやはり避けたいと考えており、そうしたバランスを考えながら進めています。ところで服を手放す時、みなさんどうしてますか?

YonYon:私はセカンドハンズショップに売りに行きます。

エバンズ:いいですね。実は、ほかの方がそのまま着てもらうリユースが、もっとも環境負荷の低い方法なんです。環境省が公表しているデータでは、不要になった服は7割(66%)近くが「可燃ゴミ」として処分または埋めたてられてしまっています。一方で、古着として販売されるのは7%しかありません。※手放す手段として


YonYon:その数少ない7%に私は入っているんですね。

エバンズ:素晴らしいです。ほかにも、古着として海外に輸出されるものの、その先でゴミになっていたりという問題もあります。
今回のこの取り組みを通じて、先が見えない服の行方を考えていただくきっかけにしたり、このフェスで毎年作るTシャツを循環させるような仕組みができたらと願っています。

今回、20周年Tシャツに採用させていただいた素材は、JEPLANという企業の「ケミカル・リサイクル」というもので、わたしもその北九州のリサイクル工場に見学に行かせていただきました。日本における服のリサイクル率は15%とあるんですが、この中でも繊維から繊維にリサイクルされているものは約1%くらい、すごく少ないんです。JEPLANさんはその1%の服から服への循環の技術をもった企業なんです。いまみなさんが着ているお洋服のタグを見てもらうと、おそらく単一素材、一つの種類の素材だけで作られているものはほとんどないのではないでしょうか。日本国内に流通している衣服の約7割が、コットンとナイロンが混ざっていたりします。一度生地になってしまうと、それを分けることが非常に難しいため、服から服へのリサイクルは非常に難易度が高くなります。ところがJEPLANさんは、繊維から繊維に作り替えるという技術によって、古い服があたらしい糸になって、新しい生地になり、今回の20周年Tシャツに生まれ変わる、ということを可能にできるということになります。例えば、SYNCHRONICITYのお客さんが何年か前に購入したTシャツが、汚れやサイズアウトで着なくなってしまった場合でも、持ってきていただければ、分解して糸にして、また次の年のTシャツにする、といった循環が作れればと考えています。

津田:その時は思い入れがあって買ったものの、着なくなってしまったり、パジャマになってしまったものもあります。捨てたくはないけど、売るほどのものでもない、といった感じですね。でも、いまご紹介があったような「SYNCHLONICITYで買ったものは別の年のSYNCHLONICITYでリサイクルする」という仕組みや、古着を持ってくると新しいグッズの購入に使えるクーポンがあったりするとなお魅力的ですね。

エバンズ:そう、インセンティブも大事だと思います。リサイクルには工数がかかるので原価が上がってしまうというデメリットはあるんですが、今回「リサイクルポリエステル」を使用した20周年記念のTシャツは、こちらのアクションの一貫として、通常の素材を使用したメインのTシャツと同じ価格で販売しています。また、古着を持ってきてくださったお客さんには、一日先着50名にはなってしまうんですが、ことし販売しているTシャツに使える500円Offクーポンをお渡ししています。

津田:全員が幸せになるアクションですね。「このTシャツ、もう着なくなっちゃったけど…この思い出をまた新しい思い出に変えていこう!」という動機付けになる500円は、すごくいい500円だと思います。

エバンズ:ありがとうございます。また、手放しづらい古着であれば、そこに今年の20周年のロゴを1,500円でプリントする、というパターンもあります。仮にSYNCHRONICITYのものでなくても、Tシャツでさえなくても、お好きなお洋服とかトートバッグなどにもプリントできます。

津田:そのパターンもあるんですね。僕も、2020年にSYNCHRONICITYのクラウドファンディングのリターンでもらったTシャツが家にたくさんあるので、あした持ってこようと思います。

YonYon:それにプリントしたら20×20ですね!!私もやってみたいです。

エバンズ:このシルクスクリーンの取り組みはアーティストの単独ライブでも可能なので、ぜひ広めていただきたいです。20周年記念Tシャツに使用されているリサイクルポリエステルのボディは、SIRUPさんがファンクラブ限定のグッズで使用していると聞いたことがあります。

YonYon:たしかにSIRUPくんは以前から環境への配慮もこだわっていて、最近はもうペットボトルなども使わないという話を聞きました。

1,000本分のペットボトルを削減

エバンズ:ペットボトルといえば、今回そこも取り組みをしています。これまでは出演者用のドリンク、お水はペットボトルでご用意していたんですが、今年はジャスティス・ウォーターさんにご協力をいただいて、すべてアルミボトルのミネラルウォーターに変えました。SYNCHRONICITYでは出演者の数も半端なく多いのですが、これによって1,000本のペットボトルが削減できました。ペットボトルはすでに分別が常識になっているので、十分リサイクルされていると思われがちなんですが、国内のリサイクル率88.5%の中で、環境負荷の低い「ボトルからボトル」へのリサイクル率はたった15.7%で、それ以外はサーマルサイクルという「燃料として燃やす」ものも含まれているんです(海外ではサーマルサイクルがリサイクルとして認められていない国も多い)。それに比べてアルミの場合、ボトルからボトルへのリサイクル率は71%となっており、非常に環境負荷が低いという理由で、今回こちらを採用することになりました。

津田:その差はやはりリサイクルに要する技術的なハードルが、ペットボトルよりアルミの方が低いということなのでしょうか?

エバンズ:そもそもリサイクルという加工では、劣化した素材を補うために必ずバージン素材を混ぜないといけないんですが、その割合がペットボトルよりもアルミの方が少なくてすむ、というのが大きいのかと思います。ちなみに、すごくおいしいお水です。

YonYon:きょうは飲む機会が絶対たくさんあるので、心して飲みます!

全会場共通のリユースカップを制作。アーティストへのギフティングも

津田:あとは、このアルミカップも新しいチャレンジですね?

エバンズ:そうなんです。リユースのものも増えてきてはいるんですが、使い捨てのプラカップを使っているライブ会場もまだたくさんあります。今回グッズとして、SYNCHRONICITYのロゴ入りのアルミカップをリユースカップとして制作しました。記念としてアーティストにもプレゼントさせていただいています。

YonYon:おしゃれ!めちゃめちゃ軽いですし!

エバンズ:冒頭でお伝えしたように、こうしたサステナブルな取り組みは、フェスを作り上げるのと同じく、一人や一つの組織だけではなにもできず、みなさんの協力があって初めて実現できることばかりです。このカップに関しても、各会場さんにしてみれば、分量の問題や洗浄のオペレーションなど、どうしてもご負担をおかけしてしまう部分があったにも関わらず、みなさんご快諾してくださりました。「思い」に共感してくださってご協力いただけたからこそ、今回実現できたのだと実感しています。

津田:ほかにも、オーガニックのレモンを使ったプラントベースのドーナツやレモネードがWWWXで販売していたりと、いろんな取り組みがなされているので、SYNCHRONICITYでこれから遊ばれる方は、日常とは違う場所だからこそ、あちらこちらでサステナブルな取り組みを感じて学びながら楽しんでもらえれば嬉しいです。

YonYon:日本ではまだ浸透してないかもしれないですが、SYNCHRONICITYが発信をすることでお客さんもそれを知り、どんどんこの輪が広がっていくのではないかと思います。

津田:いつもだったら面倒だったりで躊躇してしまうようなアクションでも、非日常の中で「いいことだし、ちょっとやってみようかな」という気分になれるのがフェスという空間だと思います。今日が誰かのきっかけになれたりしたら、このトークをお届けした甲斐がありますね。

エバンズ:本当に率直な意見をみなさんからもいただきたいですし、アーティストの方からも、今回のアルミボトルやリユースカップの感想を発信していただければ、広がりが加速していくかもしれないので、ぜひお願いしたいです。

津田:ではこの後は、みなさんTシャツをのぞきつつ、カップを買って、YonYonさんのステージに集合!ですね(笑

YonYon:私が今日予定している曲にも乾杯ソングがあるので、このカップで乾杯しましょう!

Text:川村勇気
PHOTO:大塩ハチ

SYNCHRONICITY’25

フェスにサステナブル担当?音楽フェスの持続可能性な取り組みとは?@SYNCHRONICITY’25【#FLRadio5月30日配信】

渋谷のストリートカルチャーはなぜ面白い?音楽都市”渋谷”の変遷@SYNCHRONICITY’25(Guest:ZEBBRA、金山淳吾)【#FLRadio6月18日配信】

日本のアーティストを台湾へ。シンクロニシティが台湾のフェスと連携する理由とは?@SYNCHRONICITY’25【#FLRadio6月19日配信】

元祖・都市型フェスの仕掛け人「SYNCHRONICITY」麻生潤が語る、都市でフェスを続ける理由

THE WORLD FESTIVAL GUIDE 海外の音楽フェス完全ガイド
津田 昌太朗
いろは出版 (2019-04-24)
売り上げランキング: 146,979
1 2
全国フェス検索