アジアのフェスの最前線を体感!青葉市子、ルナ・リーらも出演した女性主体のシンガポールのフェスをレポート【The Alex Blake Charlie Sessions】

アジアに縁のある女性アーティストが続々登場

「The Alex Blake Charlie Sessions」は二つのステージがあり、ひとつはバンドを中心としたライブが観られるステージ、もうひとつはバンドステージの演奏終了後すぐに音が鳴らされるDJステージのふたつ。この二つのステージが交互に音を出しているため、広くない会場内は常に音楽が流れている。バンドステージは、よくある1枚のLEDのバックパネルではなく、7枚の縦長のパネルが並ぶ特殊な仕様になっており、あまり他のライブやフェスで味わえない映像体験や特徴的なデザインを背景にしながらのライブを楽しめる。

そんなバンドステージのオープニングには、日本から青葉市子が登場。開演してすぐの演奏にも関わらずステージ前には多くファンが詰めかけており、過去にもシンガポールでライブを行い、さらに近年海外ツアーやフェス出演を成功(翌週のインドネシア・ジャカルタの2公演も両日ソールドアウト)させている彼女の人気を目の当たりにすることができた。ライブでは、美しい緑や自然の映像とともに、地元シンガポールの5人の弦楽器奏者をステージに招き、代表曲「アンディーヴと眠って」、「Sagu’s Palm Song」などを披露し、爽やかなフェスの幕開けを告げた。

ここからDJステージとバンドステージで止まることなく音楽が鳴り続けるのだが、登場するのが女性ということでなく、アジアにルーツを持ったアーティストがほとんどだったことも今回のラインナップのもうひとつの特徴だった。この日一番と言っていいアグレッシブなライブを披露したDeb Never(デブ・ネバー)、そして昨年88risingとサインし、一際注目を集めていたLuna Li(ルナ・リー)は、それぞれアメリカ人とカナダ人だが、両者ともに韓国にルーツも持っている。また、夕方以降に登場したLyn Lapid(リン・ラピド)はフィリピン系アメリカ人、人気セレブのクロエ・カーダシアンのSNSに取り上げられたことで一気にブレイクしたThuy(トゥイ)もベトナム系アメリカ人。またDJステージにも地元シンガポールはもちろん、インドネシアのKindergarchy、マレーシアのrEMPiT gOdDe$$をはじめ、アジア各国の女性DJが会場を沸かせていた。時折自身のバックグラウンドを話すアーティストもいたことで、このフェスがもともと掲げている”女性”というコンセプトに加えて、“アジア”という視点でも面白さや深さが感じられる出演アーティストの並びだった。

SLOW DANCING IN THE DARK/ Lyn Lapid

さらにそれを象徴する出来事であり、この日のハイライトでもあったのが、リン・ラピドがライブ終盤でカバーした「SLOW DANCING IN THE DARK」。この楽曲は、88rising所属のJOJI(オーストラリア/日本)の代表曲であり、彼のライブで最も盛り上がる曲のひとつ。2018年にリリースしたアルバム「BALLADS1」の収録曲であり、このアルバムはアジア人として初のビルボードR&B/HIPHOPチャート1位を記録した記念すべき作品だが、そんな楽曲をアジアにルーツを持った若手アーティストがカバー。そこに集まったオーディエンスの多くがこの楽曲のサビを合唱したときに会場がまさにひとつになったように感じた。この楽曲の強さを再認識したとともに、10年前、いや5年前では明らかに起こらなかったアジアの音楽シーン/フェスシーンの定着、そしてこれからもっと進化していくことを確信した瞬間でもあった。

もともとフェスでは有名な楽曲をカバーして会場を盛り上げるということがよくあるが、それがアジア人同士のリスペクトから来るもので、欧米のシーンでも結果を出した作品とであることは、10年以上アジアのフェスを観察しているがなかったほとんどなかった現象だと思う。さらにすべてが5年以内の出来事というのが時代の変化と希望を感じさせてくれた。そして、この日登場したどのアーティストも、自分が女性であることを当たり前に誇り、自分のルーツをリスペクトし、そして、それらをその場で集まっているオーディエンスとも共有していく快感があった。もちろんオーディエンスには様々なジェンダーの人が集っていたが、そんなことは関係なく、そこにいる人の多くがフェスのコンセプトを理解し、それをプラウドしているピースフルな雰囲気が、このフェスの最大の魅力だと言えるのかもしれない。

LIVE PHOTO









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