「日本と世界をつなぐ新たなきっかけを創出する」という目的を掲げたショーケース&カンファレンスフェス「CUEW」がこの夏、新たに立ち上がる。
沖縄「Music Lane」や東京「BiKN」がじわじわと知名度を高めているものの、日本ではまだ一般的に馴染みの少ないショーケースフェスの可能性と課題を捉え、新しいチャレンジを行うCUEW主催の野村優太氏に、立ち上げのきっかけから今後の展開までじっくり語ってもらった。
INTERVIEW:野村優太(CUEW)
-新しく立ち上がる「CUEW」とはどんなイベントで、どんな組織が運営しているのか教えてください。
CUEW(キュー)は、日本のアーティストや音楽関係者がアジア、さらにはグローバルシーンへと踏み出す一歩を後押しするプラットフォームとして誕生しました。今後は、ショーケース&カンファレンスフェスとして定期的な開催を予定していて、まずこの8月に第1弾として、カンファレンスと日本国内の旬なアーティストを集めたショーケースライブを行います。
組織としては、国内で「ONE MUSIC CAMP」や「ARIFUJI WEENKENDERS」を運営してきた野村、月見ル君想フで店長を務め、今年独立した高橋、プロジェクトマネージャーの佐藤がコアメンバーです。フェスオーガナイザー、ブッキングエージェント/プロモーター、音楽ディストリビューターという、それぞれ異なる分野で音楽業界に携わる3人が集まったチームで運営してます。そして初回の8月は、独立行政法人国際交流基金などのサポートもあり、第一歩目としてイベントを実施することになりました。
-そのメンバーが集まり、初開催に至るきっかけは何だったのでしょうか?
3人の共通点として、ここ数年で多数の海外フェスに参加し、現地のショーケースや業界動向を肌で感じてきた経験を持っています。また僕個人が、国内外のフェスやショーケースイベントに参加する中で、日本発の音楽が海外に届くためのきっかけが圧倒的に足りていないと強く感じていました。世界でも十分に通用する日本の才能あるアーティストがいるにもかかわらず、挑戦するための環境や海外とのネットワークが整っておらず、国内にとどまってしまっているケースも少なくありません。
一方で、世界にはSXSW(アメリカ)、The Great Escape(イギリス)、Bangkok Music City(タイ)など、アーティストと音楽業界関係者が直接出会い、次のステップへとつながるショーケースフェスが数多く存在します。日本には、こうした国際的な規模と機能を備えたイベントがまだまだ少ないのが現状です。だからこそ、「日本から世界へ、世界から日本へ」を本格的に実現できる出会いと挑戦の場として、CUEWを立ち上げました。
-そもそも日本ではショーケースフェスが海外に比べて少ないと。そもそもショーケースフェスとはどういったものか説明していただけますか?
ショーケースフェスは、アーティストが自身の音楽を披露し、それを国内外の音楽業界関係者(デリゲーツ)に向けてプレゼンテーションすることで、ツアーやフェス出演、契約、配信リリース、コラボレーションなど次の展開につなげることを目的としたイベントです。単なるライブイベントではなく、デリゲーツとのネットワーキングや各国の情報交換、カンファレンスでのパネルディスカッションを通じて、音楽業界の最新動向やリアルな事例、国際展開における課題とヒントを共有する、学びと交流の場でもあります。
-アーティストにとっては、たたライブを披露したり、講演を聞くだけでなく、アーティストやレーベル側が積極的に参加することが大事になってくると。
まさにそうです。カンファレンスやパネルセッションに限らず、1on1のスピードミーティングやネットワーキングのセッションを設けるショーケースも多いですが、ライブパフォーマンスでのプレゼンテーションにとどまらず、多角的なアプローチで直接、音楽業界関係者とコミュニケーションがとれるというのが共通としてあります。インディペンデントレーベルやDIYで活躍しているアーティストも、市場やアプローチの手法を学び、国際的なネットワークをつくることで、世界に挑戦するきっかけを手にすることができると思っています。
-野村さん自身が多くのショーケースフェスに参加してきて、影響を受けたり、CUEWを立ち上げに参考したイベントはありますか?
私自身、ここ数年はアジアやヨーロッパのショーケースフェスに積極的に参加しており、なかでも韓国「Zandari Festa」やタイ「Bangkok Music City」には強い影響を受けました。これらのイベントには100名近くの海外の音楽関係者(デリゲーツ)が参加しており、出演アーティストの中には実際にブッキングエージェントとの契約に至ったり、海外フェスへの出演が決定するなど、リアルな成果が生まれています。これらのショーケースではデリゲーツ同士の交流も非常に活発に行われており、自分自身も台湾や韓国のイベント・フェスへのアーティストブッキングや、日本国内での海外アーティスト招聘など、各地で知り合ったデリゲーツとのつながりを通じて、日本のアーティストを海外へとブッキングすることが実際にできています。
8月の初回開催と今後に向けて
-次に、具体的な8月開催内容について教えてください。世界各国から集めるデリゲーツ、そして国内のアーティストの選定などはどういった基準で行いましたか?
まずデリゲーツですが、フェス側がどういったデリゲーツ(業界関係者)を国外から招くのかということは、こういったイベントを継続する上で、非常に重要な指針になると思います。CUEW初回は国際交流基金とコラボレーションして開催するのですが、我々は世界各国で築いた独自のネットワークや国際交流基金のネットワークの中から、海外フェスのプログラマーやブッキングエージェントなど、実際にアーティストを国際的に展開させる力を持ち、実際に日本のアーティストを出演させたいと思っている各国のキーパーソンを中心に招待しました。単なるネットワーキングにとどまらず、出演や契約といった次のアクションにつながるような実践的な出会いを意識してキュレーションを行っています。
-どういったデリゲーツが揃いましたか?
ヨーロッパからは、エジプト、チェコ、フランス、ハンガリーといった国々を代表するフェスのオーガナイザー計4名が来日予定です。アジアからは、インドネシア、タイ、台湾、インド、オーストラリアのフェス主催者5名が参加し、合計9名のデリゲーツがカンファレンスに登壇します。さらに、イギリスの音楽関係者や中国のプロモーターやインドネシアのショーケースフェス関係者も参加予定で、登壇者以外にも会場内でのネットワーキングや交流ができます。
-現在決まっているカンファレンスの内容も教えてください。
Day1とDay2では少し異なるテーマを設けており、Day1は、ショーケース文化がまだ十分に浸透していない日本において、その価値や仕組みを改めて紹介するとともに、海外進出を目指すための第一歩を掴むためのトピックを中心に構成しています。アーティストやマネージャー、業界関係者が、グローバルシーンにどうアクセスするかのヒントが詰まった内容です。
Day2では、より実践的な内容として、フェスを軸にしたケーススタディを展開します。インドネシアの「Java Jazz Festival」とタイの「Bangkok Music City」によるアジア戦略や、東欧最大級のフェス「Colours of Ostrava」から学ぶヨーロッパ戦略、台湾の「Vagabond Festival」と東京の都市型フェス「SYNCHRONICITY」によるエクスチェンジの可能性など、実例に基づいたリアルな知見を共有します。フェス主催者やブッキング担当者との話を通じて、実際の動き方や国際展開の具体的なステップを学ぶことができます。
-カンファレンスはどういった方に届けたいですか?
海外を目指すアーティスト、アーティストの周りにいる全ての方に聞いていただきたいと思っています。アーティストの海外進出にはメンバーや周りのチームの視線を揃え、自分事化することも大切です。せっかくなら関わる全員に興味を持っていただきたい。だからこそ今回参加いただく、特にアーティストやマネージャー、関係者の方にとってきっかけとして届くようなテーマを考えました。いい意味でビジネス的なトピックばかりではないので、アーティストにも、チームのさまざまなポジションの方にぜひ聞いてもらいたい内容になっていると思います。
-そしてショーケースライブには、国内アーティストが多く並んでいます。その選定基準は?
アーティストのラインナップについては、国内外の多様なジャンルから、ジャンルや知名度にとらわれずこれからの可能性にフォーカスし、新しい才能や国際展開のポテンシャルを持つアーティストを選出しています。海外のデリゲーツにとって未知の存在でありながら、世界に響く力を秘めたアーティストを積極的に紹介したいと考えています。
-それでは最後に今後、CUEWが目指している未来についてお聞かせください。
CUEWを単発の年1回のイベントにとどめるのではなく、年間を通じて定期的に開催することで、持続的な学び、挑戦、つながりの機会を創出していきたいと考えています。また、日本やアジアのアーティストたちが国境を越えて活躍するためのキャリアの転換点となるような出会いや実践の場を提供し、未来のヘッドライナーへと成長していける新たなプラットフォームを目指したいと思っています。
-世界各国で多様なショーケース&カンファレンスフェスがあるように、日本にもこの文化を定着してほしいです。
はい。すでに日本にもショーケースやカンファレンスもあるのですが、しっかりと文化として根付かせることを目標にして頑張ります。その第一歩として、音楽・カルチャーの中心地である渋谷から、アジアや世界に挑戦できるきっかけを生み出す場をつくっていきます。
-単独開催以外の想定もあるとか。
詳細は今後アナウンスしていきますが、来年の春には、東京で開催される都市型フェスとの共同開催を予定しています。日本には数多くの魅力的なフェスがあるので、各都市との共同開催も今後チャンレンジしていきたいと考えています。
CUEWははじまったばかりなので、日本のアーティストやチーム、関係者の方と一緒に大きくなっていきたいですし、それで日本から世界への音楽シーンが面として強く賢く、楽しくなったらいいなと思います。
-それでは最後にどんな方に「CUEW」にきて欲しいか、メッセージをお願いします。
海外を目指すアーティストはもちろん、すでにグローバルに挑戦している方、そして国内外に視野を広げたいけれど最初の一歩が踏み出せずにいる音楽関係者まで、幅広い層の方にぜひ参加していただきたいと考えています。CUEWは、国境やジャンルを越えて、音楽やカルチャーの新たな「きっかけ」を掴める場所です。ここでの出会いや学びを通じて、可能性を再発見し、次のアクションへとつなげてもらえたら嬉しいです。サマソニ&ビリーアイリッシュ終わりの月曜・火曜ですが、ぜひ渋谷に足を運んでください!
DELEGATES / デリゲーツ(国外音楽関係者)一覧
・ハンガリー / Budapest Ritmo / Balazs Weyer
・インドネシア / Java Jazz Festival(フェスティバル)/ Dewi Gontha
・チェコ / Colours of Ostrava(フェスティバル) / Filip Kostalek
・オーストラリア / RISING(フェスティバル) / Hayley Percy
・インド / MusiConnectAsia (フェスティバル)/ Kaushik Dutta
・エジプト /She Arts Festival, Cairo International Jazz Festival(フェスティバル) / Neveen Kenawy
・タイ / Maho Rasop,Bangkok Music City(フェスティバル)/ Sarun Pinyarat
・フランス / Rio Loco(フェスティバル) / Vincent Lasserre
CUEW Showcase & Conference Tokyo 2025 Summer
日程:2025年8月18日(月)・19日(火)
・カンファレンス 13:00 – 17:00
・ショーケースライブ 17:30 オープン / 18:30 スタート
カンファレンス会場:SHIBUYA XXI
ショーケースライブ会場:SHIBUYA FOWS & SHIBUYA XXI主催:独立行政法人国際交流基金、CUEW実行委員会(合同会社KOKICIK / 株式会社SHIN)
協力:microAction
公式サイト
東京発のショーケース&カンファレンス・フェス「CUEW」出演者発表で、荒谷翔大、藤原さくら、Kan Sanoら15組決定