【Head In The Cloudsレポ】フェスもアジアの時代へ。88risingが創造するアジアのフェスシーンとは?

HITC DAY2レポ

薄い雲がかかるが雨は降らず、気温が30度を越えた2日目。この日のスターターはジャカルタを拠点に活動するラッパーのWarren Hue(ウォーレン・ヒュー)。前日に出演した新しい学校のリーダーズa.k.a ATARASHII GAKKO!がシングル「FREAKS」でフィーチャーし、今年リリースされた88risingのEP『Head In The Clouds Forever』では宇多田ヒカルと共演して多彩な表情を見せた彼は、メロウな楽曲から高速ラップまで短い時間の中で最大のプレゼンスを発揮した。

韓国のスター発掘番組で注目されたシンガーBIBIの妖艶なステージに続いて、インドネシアのシンガーBAP.はハウス、ヒップホップ、クラシックなどをクロスオーバーしたトラック、語るようなラップがクール。韓国のアイドルグループI.O.Iの活動を経てソロになったCHUNG HA(チョン・ハ)は、88↑ステージを端まで使い歌い踊りながらオーディエンスと目を合わせ、MCの時間に客席から声がかかるとそこまで行き写真集にサインをするなどファンサービスもさすがだった。

どのアーティストのパフォーマンスも違った魅力があってフェス用の短いセットリストでは足りないと思うほど惹き込まれたが、特に圧倒されたのはインドネシアの女性三人組バンドVoice Of Baceprot(ボイス・オブ・バチェプロット)だった。全員が黒いヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭や身体を覆う布)をかぶりその上からトゲの鋲がたくさんついたチョーカーを首に巻き、笑顔を見せずストイックにプレイする姿に思わず「かっこいい…」と声が漏れる。楽曲のベースはメタルで、パンク、ハードコアの要素も感じる。3人で出しているとは思えないくらい音が分厚い。高校時代からレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやメタリカ、スリップノットなどのカバーで鍛えた演奏力の高さとクールな佇まいを、ぜひ日本の音楽ファンにも体験してほしいと思った。

17時をまわりYOASOBIが88↑ステージに登場、一曲目「夜に駆ける」のイントロが聞こえると会場は大きな歓声に包まれた。歌唱は日本語にも関わらず、シンガロングも絶えず聞こえる。堂々としたステージングは海外初パフォーマンスのプレッシャーを少しも感じさせなかったし、会場全体がYOASOBIを待っていたと言っても大袈裟ではないくらい紛れもなく“ホーム”だった。このフェスの少し前からインドネシアのSNS上でバズっていた「たぶん」が4曲目に披露されると、メロウな曲ながら大合唱が起きた。どの曲も等しく盛り上がっていたのをみると、アニメの主題歌などピンポイントで知っているファンが集っているのではなくインドネシアの音楽ファンの間でもYOASOBIの楽曲がしっかり認知されていると感じた。

YOASOBIの余韻に浸りながらDouble Happinessステージに移動、LAコンプトン出身のラッパーAugust08の豊潤なボーカルに身体を揺らす。韓国のバンドDAY6から脱退したJaeのソロプロジェクト、eaJ(イージュ)、中国の9人組男性グループNINE PERCENTで活動後、現在はソロシンガーとなったWang Ziyi(ワン・ズィー)、香港の多国籍グループGOT7のメンバーだったJackson Wang(ジャクソン・ワン)とソロ・アクトが続き、台湾人の両親をもつアメリカ・ミシガン出身のDJ、Elephanteが会場を温めると、88↑ステージにはジャカルタ出身のラッパーRich Brianがヘッドライナーとして登場。若くして88risingの主力アーティストとなり、世界的にインパクトを与えている地元のスターを見つめる観客は熱く自信に満ちているようだった。「アジア系」と一括りにするのではなく、それぞれのルーツをレプリゼンテーションしながら世界はそもそも多様であることを轟かせることの大きな意義を感じた。

ステージはそのままフィナーレに突入。まずStephanie PoetriとJackson WangがStephanieの楽曲「I Love You 3000」をアレンジした 「I love You 3000 Ⅱ」をデュエット。続いてATARASHII GAKKO!が「N A I N A I N A I」を披露、その後YOASOBIが再登場し「夜に駆ける」と「怪物」を英語バージョンで、「怪物」にはWarren Hueがラップで参加し貴重なコラボとなった。Rich Brianが合流しWarren Hueとともに、今年2人が共作した「Getcho Mans」を高速でラップし会場のテンションは最高潮に。さらにJackson Wangが加わり「California」でしっとりと終演ムードになったところで、これまでの出演者のほとんどが再びステージに上がり、August08とRich Brianがマイクを握って「Midsummer Madness」を大合唱。観客とともにコーラスのパートを名残惜しそうに何度も繰り返し、約二万人を集めたHITC初めてのジャカルタ公演の感動的な大団円となった。

Text by 奥浜レイラ

DAY2:88↑ STAGE

DAY2:Double HAPPINESS STAGE

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