フジロック主催者に訊く、コロナ禍でのフェス開催にかける思い〜参加者に向けた注意点

日本を代表する音楽フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」(フジロック)。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年は延期となったが、フジロックを主催するSMASHはこの1年の間に、様々な行政機関との調整や地域との協力体制、そして感染対策について関係各所とさまざまな議論を重ねてきた。

現時点で発表となっている、ステージ規模の縮小、国内アーティストのみのラインナップ、そして酒類の禁止など、フェス開催を実現するために奔走し、まさに過去にない異例のフジロックとなることが予想されるなか、SMASH取締役の石飛智紹さんにこういった状況下でフェスを開催する意義、さらに今年の注意点や参加者へのメッセージを伺った。(インタビューは8月4日実施)

三位一体となれば光は見える。諦めないフジロックスピリット

SMASH取締役・石飛智紹さん(写真:本人提供)

-目まぐるしく状況が変化する中で、フジロック開催は注目度も高く、例年とは比較にならない実務や苦労があるかと思います。そういった中での開催に向けての思いをお聞かせください。

昨年から新型コロナウイルス感染症の状況を観察し、どういったことをすれば感染が防げるのかをずっと考え続けてきました。直近ではデルタ株の拡大など新たな脅威もありますが、最後の最後まで可能性を探って実行し続けるということ、これは1997年のフジロック初開催のときから変わらずに私たちが持っているメンタリティであり、それがなければそもそも最初から開催なんてできてなかったわけですから。その諦めない精神が元来あるということが大前提としてあります。

そしてもう一つは地域の皆さんの理解と協力です。フジロックに限らずフェスは開催する自治体との調整、地域の皆さんとの対話で作られていきます。その点でフジロックはありがたいことに、地域の皆さまにも開催に対して力強い賛同をいただいています。

もちろん反対意見も伺っていますが、湯沢町長の発信にもあったようにフジロックに向けて町民の皆さんがワクチン接種を完了できるように強く押し進めていただいたり、 近隣である南魚沼市でも集団接種を進めていただくなど、フェス主催者側だけではなく地域として迎える側の努力も重ねていただいていることを改めて感じることが出来たのは励みになっています。

主催者、地域の方々、そして参加者とが三位一体となり実現にむけて様々な対策をひとつずつ積み上げることが可能なのであれば、出来ないはずがないと思えたことは大きかったです。

もちろん色々と取捨選択して諦めるという部分も沢山ありますが、フジロックに限らずこれまで築き上げてきたフェスの文化、お客さんと地域の交流や信頼関係など、そういったものを将来に向けて繋げる為に、今年は採算を度外視してでもやるべきことをひとつづずつきちんとやろうというのが私たちの正直なところです。

また、去年から今年の延期でも約8割の人がチケットを払い戻すことがなかったというのも大変勇気づけられました。


-他のフェスの動きなどは注視していましたか?

私はフェスコンソーシアムの発起人でもあるので、他フェスと連携していますし、当然周りの事情も把握しています。

-フェスコンソーシアムはコロナ禍からスタートしましたが、良かったことなどはありますか?

とてもあります。今まではライバルのような関係だった人たちと本音で話し合えるというのは、コロナ禍だからこそ。今もそれぞれの対策を共有し議論しながらやっているので非常に助かっています。

そして一番良かったと感じているのは、大学教授などの先生方に対策の監修やフェスが持つ経済波及効果を計算してもらうことがあったんですが、フェスの存在が与える地域創生の役割というのが膨大にあるということに気づけたことです。フェス自体の経済効果の10倍もの影響が地域にとってあるというのは、イベントの開催という枠以上の地域貢献に繋がっています。

また経済効果だけでなく、フジロックにおいては湯沢町に移住促進のNPOができたんですが、代表の女性はフジロックのお客さんとして湯沢にきて、そこから実際に移住をし、他の人も誘致しているということなんです。まだ、お目にかかったことはないのですが、今年のNGOビレッジにも出展いただきます。

そういったお金だけではない、さまざまな側面で都市と地方を結ぶ架け橋にもなれていることも知ると、決して主催者側だけの理由でやる・やらないを決められるものではない、というのが改めて実感できたというか。そういったことに気づけたのはとても良かったと思っています。

酒類禁止、事前の検査も


-それでは具体的な感染対策についてお聞きしたいのですが、先日酒類の提供・持ち込み禁止の発表をされました。どういった経緯でそうなったのでしょうか?

最初に今年の開催発表をしたときから、イベント自体での時短提供の可能性があるということはお知らせしていたのですが、その後の感染状況をみながら何時までにするかなどを検討して、20時までや日没前の18時までといった案もありました。ですが様々な方とも話し合った上で、やはりその他の感染対策ルールをきっちり守っていただく行動規範の遵守のためにも白黒つけたほうが良いという判断で、酒類の禁止という措置をとることになりました。

フジロッカーにとってお酒が大事なもののひとつというのは分かっています、2年ぶりの一杯を現地で味わってほしかったという気持ちは我々にもあります。しかし、感染対策の徹底という点を考慮すると今年はそうせざる得なかったというところです。

感染対策というのは主催者だけが色々やっても太刀打ちできるものではなく、お客さんと協力して初めて効果がでるものなので、一つ一つちゃんと実行して開催にこぎつけるためには、この決断はどうしても乗り越えないといけないステップだとご理解いただけたら。

-キャンプサイトも含めて禁止ということで、参加者は協力する前提かと思いますが、スタッフ側から見回りや注意を促すことはあるのでしょうか?

それはキャンプサイトに限らず会場全体でやっていきます。荷物検査もありますし、持ち込みなどを防ぐ動きは実施します。お酒の締め付けのように感じてしまうかもしれないのですが、全体の感染対策という観点ではお酒を飲んで気が大きくなって行動に制御がきかなくなったりしてしまう、そういったことを防ぐためにやることですので、ご理解ください。

そういった狙いですので、なにもこれは場内だけの話ではないということが分かってもらえるかと思います。限りなく地域に迷惑をかけないで開催を実現する、それが我々の本来のテーマなので、よく聞かれるんですが会場外であれば飲んで良いのかとか。そういう話ではないというのは参加者の方々に理解していただきたいです。

そして、この禁酒には地域の方々にも賛同協力いただいて…例えばプリンスホテルさんも4日間酒類の販売は停止いただきますし、苗場地区は20時で酒類販売停止、 駅周りも含めた街全体の協力で様々な対策に取り組んでいただいています。地域あっての開催ですので節度もった行動をお願いします。

-飲み物について、ソフトドリンクはもちろんですが、ノンアルコール・ドリンクなどの提供はあるんでしょうか?

それはあります。出店者の方々も色々と趣向を凝らしていると聞いております。ぜひ色々お店を見て回って楽しんでいただければ。

-公式アプリも同時に公開されました。どういった経緯で導入、開発に至ったんでしょうか

これは、イベント開催には政府から参加者全ての個人情報をとって後日連絡が付けられるようにという指導があるのですが、であればやはりフジロック側がアプリを作ってそれに入れていただくのが一番いいかなと。

ただ個人情報の取得だけではなく、当日出発前の体温や問診にも入力いただいたうえで、それだけでは面白くないので従来配っていたZカード(ゲートで配られるマップやタイムテーブルが描かれている冊子)のような役割を進化させてマイ・タイムテーブルやマップなどの機能ももたせて来場される方に使ってもらえたらと思い開発しました。


-マスクが会場内で汚れたり失くしたりした場合、場内で販売等はしているんでしょうか?

基本的には提供しない、「自分のことは自分で」というのがフジロックです。ただ、そういった場合も想定して予備も含めて余裕のある準備をしていただけたら。あと、雨が直接あたったりすると濡れて不快になったり、呼吸がしずらくなったりしてしまうので、ツバありの帽子がオススメです。

特別なフジロック、変更点は?

-会場などに変更点が多数あります。新設されるエリア、変更点などについてお伺いできますか?

まず入場ゲートがかなり手前にきます。テントサイトの赤い橋のすぐ横が駐車場、そしてその横にTHE PALACE OF WONDERなどありましたが、そのエリアに飲食や物販などが入ってYellow Cliffという名称になります。イメージとしては第2オアシスといったところでしょうか。飲食スペースが2倍になり、フジロック参加者の数も従来の半分以下ですので、広々と距離を保って利用していただけるんじゃないかと思っています。

-それでTHE PALACE OF WONDERがないのでROOKIE A GO-GOが苗場食堂のエリアに移動すると。

そうですね。苗場食堂をワールドレストランのエリアを使って広く展開します。それで昼はROOKIE A GO-GO、夜は苗場食堂ステージという使いわけをしていきます。ROOKIEは、デビュー前に場内ステージでパフォーマンスできるわけです。今年だけは。

-AVALON FIELDも従来と違うとか?

従来のAVALON FIELDの場所には、ステージ等はなくして、飲食のスペースといった形になります。喫煙所もあります。その代わりにCafe´ de ParisがあったエリアにNGOヴィレッジやGypsy Avalonステージをもってきました。

Cafe´ de Parisはやはり室内空間演出でないと雰囲気が違いますし、ドラムサークルも距離感や楽器貸し出しの問題で感染防止対策上難しいよねということになり、代わりにここでやろうと。

AVALON FIELDはいろいろな社会の課題についての発信の場として機能してきた場所ですので、そういったテーマ、メッセージの発信を絶やさないためにも、なんとか生き残らせたかったということもあり、今年限りになると思いますが場所を変えてでもやろうということになりました。

-前夜祭はありますか?

盆踊りや大抽選会、RED MARQUEEでのライブなど、いわゆるお祭り的な催しはないです。今年は前夜祭という表現はせず「プレオープン」という言い方になります。キャンプサイトとYellow Cliffがまず開き、その後にオアシスがオープンして食事ができるようになるといった形になります。

-会場のレイアウトもかなり印象が変わりそうです。キャンプサイトでシャワーや温泉、女性専用エリア等は従来通りあるのでしょうか?

キャンプサイトにおいては女性エリアもふくめ従来通りに設置いたします。公式サイトにも随時最新情報を記載しているのでしっかりチェックして来てもらえたらと思います。

-ライブ配信は実施しますか?

やります。ラインナップなどは現在調整中なので発表をお待ちいただければと思います。

-椅子の持ち込みにも変更があります。組立式アウトドアチェアが禁止となりましたが、どういった椅子を指しますか?

自分で組み立てて使うタイプは禁止です。開くだけですぐ使えるものはOKです。これも図解したものを用意しているので参考にしてご用意いただけたら。あと、RED MARQUEEにはイスは持ち込めません。これらは去年から既に変更になっていて…実現できてないのですが、コロナ対策だけがルールではないので、皆さん忘れないようよろしくお願いいたします。

-新規の参加者の方も増えると思います。メッセージ等あればお願いします。

初めて来る方が多い予想がこちらでもあります。これはぜひベテランの方からも投げかけてほしいのですが、山を舐めずにしっかりとした準備をしていただきたいです。

大昔のようにサンダルやキャミソールだけなど、軽装だけで来て熱が出たなどがあった場合、退場していただくということにもなってしまうので、とにかく準備含め体調管理は気をつけてください。(※風邪などの場合であっても検温の結果、37.5℃以上の発熱が確認された場合は、⼊場・来場(乗車)をお断りさせていただきます。)

まだ夏とはいえ山なので8月下旬は涼しくなります。現地では深夜や朝にかけては場合によってはストーブを点ける場合もあると聞いていますので、従来の参加者の方々も装備には注意してお越しいただきたいです。

-確かに今年は体調管理がとてもネックになりそうです。開催中もそうですが、来場する以前からも気をつけて過ごさないといけませんね。

実は、業界初の取り組みになると思っていますが、出発前に体調に不安のある人は払い戻しをするのでお休み下さいということも、今年はします。(※詳しくは8/6発表のニュース参照)

それに加えて、アーティスト含めた関係者全てにPCR検査を数千人規模で実施するだけでなく、チケット購入者にも希望であれば抗原検査のキットを無料で送る取り組みも実施中です。お客さん判断にはなりますが、コロナ禍のマナーの一つの取組みとしてイベント参加前には検査をしてこようというのをフジロックとしては推奨しようと。

購入時の規約にはないことなので強制にはできないのですが、マナーやエチケットというレベルにすることで、ルールは少なく皆がハッピーになれるフェスを目指す。フジロックスピリットに基づいた取り組みになります。

Interview/Text:江藤勇也
Photo/image:Official

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