【Coachella 2023体験記】グローバル、ジェンダー、ショービズ、常に進化するコーチェラの3日間で起こったことをレポート

DAY2:GIRL POWERを感じた2日目

2日目は、15時台のSnail Mailに間に合わず、Robert Glasper率いるスーパーグループDinner Partyでスタート。Kamasi Washington、 Terrace Martin、9th Wonderという豪華すぎるユニット。この日のスケジュールも悩ましい被り。Hiatus KaiyoteとMura Masa、Charli XCX、The Linda Lindasが絶妙に被っていたが、まだ観たことないCharli XCXをフルで観る選択をした。Charli XCXは念願のCOACHELLA STAGE(メインステージ)で、彼女のキャリア史上最大のステージらしい。4人のダンサーを従えたダンスパフォーマンスが最高だった。スペシャルゲストでTroye Sivanが登場し「1999」。Troyeがかっこすぎて久々に黄色い歓声が出た。

続いてGOBI TENTでYaeji。2019年のフジロックはレッドマーキーで出演した彼女だが、コーチェラのGOBI TENTもまさにレッドマーキーのような雰囲気のステージ。この日のヘッドライナーはBLACKPINKなので、同じ韓国ルーツのYaejiはアジア系のオーディエンスで溢れていた。絶対盛り上がる曲「Raingurl」はもちろんみんなシンガロング。どんどん人が増えていって、彼女の人気の高さを実感。そして今回最も楽しみにしていたのはFrank Oceanだったが、その次に期待していたのがboygenius。気のせいか2日目はGIRL POWERを感じさせる並びだった。オーディエンスも女性率高め。ダンスミュージック続きで耳が疲れてきた頃にバンドサウンドを聴くと安心した。そしておそらくキャリア史上最大のステージで演奏する彼らはとても楽しそうだった。6月から始まるワールドツアーが楽しみ。

BLACKPINKを観るのは2019年のサマソニ以来。もはやアメリカでは曲は知らなくてもほとんどの人は存在を知っているのがBTSとBLACKPINK。アジア人女性グループとして初のコーチェラのヘッドライナー。しかも女性グループのヘッドライナーは以外にも史上初!ということもあって2日目はBLACKPINK一色だった。日が沈むと会場はピンク色にライトアップされ、来場者もBLACKPINKを意識したコーディネートの男女が多かった。

コーチェラは1日券がないが、初日よりもアジア人が多い気がした。韓国から来たというカップルは特製の衣装で着飾っていて、通りかかる人々に褒められていた。30分押しでBLACKPINKのパフォーマンスがスタートすると、オーディエンスによる韓国語のシンガロングがすごい。在米コリアンが多いとはいえ、数万人のオッパ!「BOOMBAYAH!」をアメリカで聞けることに驚いた。もちろん本人たちのパフォーマンスのクオリティは素晴らしく、間違いなくアジアを代表するスーパースターだった。そういえばアメリカではもう10年以上ガールズグループが成功していない。最後に一世を風靡しかけた(!?)のがPussy Cat Dollsで、一応今も活動はしているものの、K-POPアーティストほどの影響力はない。DIVAとシンガーソングライターの強い世界に切り込んでいったK-POPはすごい。私自身SPICE GIRLSやデスチャ、PCDに憧れたガールズグループ好きとして、BLACKPINKのグローバルな活躍は興奮するものがあって、蘇ったガールバンド旋風がアジア人だということに感動し、涙が出たくらいだった。

BLACKPINKが終わった後は、The Kid Laroiに走る。会場にJustin Bieberの妻Hailey Bieberが来ているのはインスタでチェック済。もしかしたらゲスト出演するのではと期待する噂が流れていたが、結局Justinの出演はなく、割れんばかりの「Stay」のシンガロングで終了。まさかのその裏でLabrinthのステージにBillie Eilishがプライズ出演して「Never Felt So Alone」のパフォーマンスしていたとは…。この日もコーチェラのサプライズゲストの豪華さに驚かされた。最後にSuicideboy$を少し観て2日目は終了。

DAY3:フランク・オーシャンを観た

3日目は最終日なので少し早めに支度をして13時55分からのLos Bitchosからスタート。コーチェラの公式プレイリストで知った女性4人組のバンドで、サイケデリックサーフインストバンドという感じ。中南米の明るいサウンドをベースにしていて明るいHiatus Kaiyoteと言ったらわかりやすいかもしれない。フジロックのField of heavenにたむろっている人たちにぜひ聴いてほしいバンド。SONORA TENTという、ライブハウス感のある一番小さなステージだったが、早耳のリスナーとなんとなく涼みに来たオーディエンスが集まり、最終的には愉快なパーティーに。

続いてもコーチェラのプレイリストで知ったサウスロンドン出身のネオソウル、Joy Crookes。彼女のルーツがバングラデシュとアイルランドで、彼女のアイデンティティを曲にしているという。衣装もバングラデシュの女性が身に着けるヒジャブをイメージしたものを身に着けていて美しかった。その後COACHELLA STAGEに移動してPorter Robinson。キャリア最大のステージだからとても緊張していると話し、ギターを弾く手がアップになると震えていた。友人のMADEONが登場して少し安心したのか、「Shelter」を一緒に演奏する姿がすごく楽しそう。余談だが彼の恋人は日本生まれで、コーチェラ後に結婚したらしい(Instagramより)。高木正勝氏を音楽のヒーローだと語っていたが、終始VJがアニメで日本語も登場し、彼の日本カルチャー愛を感じた。メインステージにも関わらず大勢のオーディエンスと「Sad Machine」のシンガロング。2014年にヒットした「Worlds」以降、3年ほどうつ状態を経験したが、完全復活した彼の衣装の背中には「MUSIC SAVED MY LIFE ((d[-_-]b))」と描かれていたのが印象的だった。

再びSONORA TENTに戻って、かなり昔から好きなのに一度も見たことのなかったAlex Gへ。最前列で観ていたが、客層は様々で若い女性が多かった。インディすぎて何がヒット曲なのかわからないAlex Gだが、「Runner」はさすがの大合唱。北米ツアーはほぼソールド、NYでも中規模会場を2日間ソールドアウトしているほどの人気がある。年末に日本での来日公演があるので絶対に行ってほしい。セットリストシートをゲット。

Alex Gでバンドサウンドにホクホクしていた頃、Kali UchisのステージにTyler, The Creatorが登場して「See You Again」をパフォーマンスしていたらしい。この3日間に、The Weeknd、Billie Eilish、Tyler, The Creator、FUTUREなどサプライズゲストだけでグラミー賞みたいなラインナップである。コーチェラ恐るべし。また、BTSのジョングクもBLACKPINKを観ている姿をキャッチされていたが、出演はなかった。

Frank Oceanまでの間は気になっていたアーティストを少しずつ観て回る。特に凄かったのがJackson Wang。多国籍KPOPグループGOT7のメンバーだが、実はアメリカでかなり人気で2022年のコーチェラでは88risingのステージで出演していた。そのため異例の2年連続コーチェラ出演である。今回はCiaraをゲストに迎えてのパフォーマンスだったのだが、アジアのMichael Jacksonと言っても過言ではないようなステージだった。おそらく衣装や演出もオマージュしていたと思う。突然、日本人ガールズグループXGの「LEFT RIGHT」の音楽とモニターにMVが流れて2人が歌いだしたのでどういうこと?!となり一時話題になったが、後にXGが2人とのコラボバージョンをリリースしたことで謎が解けた。XGも来年のコーチェラで観られるかもしれない。

続いてはWILLOW。昨年のオスカービンタ事件で話題になったWill Smithの娘である。俳優でもあるが、元はラッパーとして活躍していた父に対し、フライングVを弾きながら歌う姿はとてもクールだった。ゲストに兄弟でラッパーとして活躍するJaden Smithが登場。サラブレット家族すぎる。WILLOWも今年のサマソニに出演するのでぜひ観てほしい。

日も沈んでOUTDOOR STAGEでDominic Fike。人気ドラマ「Euphoria」に出演しているだけあって女性ファンが多い。雰囲気はいまどきなのに歌声とサウンドはどこか懐かしさを感じて、こういうカリスマチックなギターロックソロシンガーをアメリカで観るのは久々かも?

Frank Ocean待機の前に少しだけDPR LIVE+DPR IANを観た。韓国出身のクリエイティブ集団DPRのメンバー、DPR LIVEとオーストラリア出身のIANによるステージ。DPR LIVEは韓国のヒップホップ好きなら知らない人はいないほどらしい。コーチェラのGOBI STAGEのラストを飾るのは凄い。Frank Oceanの前にも関わらず多くの人が集まっていて熱気にあふれたステージだった。今回、数多くのアジア勢アーティストを観ることができて、コーチェラが以前よりももっとグローバルなフェスになったことを実感した。去年の宇多田ヒカルのように、日本人アーティストも観てみたい。

そして今年のコーチェラの一番の目的だったFrank Ocean。幻となった2020年のコーチェラ。(個人的に)史上最高のラインナップでチケットを持っていたものの、新型コロナウイルスの影響で中止に。今回満を持してのFrank Oceanである。彼がオーディエンスの前でパフォーマンスを行うのは、2019年以来。予定時刻は22時5分スタートだったが、直前に22時半スタートになるだろうというアナウンスがあった。Frank Oceanの裏は誰もいないという珍しいタイムテーブル。参加者のほとんどがFrank Oceanを観るために早めの時間から待機していた。前方寄りの真ん中あたりで待機していたが、待機中に飲みすぎたのか、オーバードーズか熱中症かで次々と人が倒れていく。その度に周りの人たちから「Medic!!」コールが始まる。このサバイバルを生き抜いた者だけがFrank Oceanを観れる・・・!

23時すぎにショーはスタート。通常中央部分が凹んだ形になっているCOACHELLA STAGEのモニターだが、フルフラットの大型スクリーンになっていて、そこに映画のように美しい映像が投影されていた。冒頭にインディペンデント系映画制作会社A24のオープニングのようなドットが映し出されたのだが、どうやらA24と長編映画を製作中との噂がある。ザ・アメリカ、ザ・エンターテイメントショー!というイメージの強いコーチェラのヘッドライナーのステージだが、Frank Oceanのパフォーマンスは全くもってこれまでのコーチェラのヘッドライナーとは違うステージだった。彼のスタイル上、The Weekndのようなスター感やKendrick LamarやChildish Gambinoのようなメッセージ性を持たせたパフォーマンスではないだろうと予想していたが、結果Frank Oceanらしいパフォーマンスだったのかもしれない。彼はどこまでもアーティストだった。久々の観衆の前でのパフォーマンスで期待が高かった分、インターネット上では散々なコメントが多かったが、振り返ってみるとすごいパフォーマンスだったと思う。終わり方こそ確かに尻すぼみ感はあったが、オープニングは前衛的で演奏や歌声はもちろん素晴らしかった。“Blonded Radio”でもフィーチャーしていたCrystall messによるDJプレイもUnderworldのBornslippyをミックスしたりとにかくクールだった。

結局のところFrank Oceanが何をしたかったのかは謎に包まれるが、商業的なコーチェラへのアンチテーゼなのかもしれないし、特に意味はないのかもしれない。それがFrank Oceanという存在だと思うことにした。残念なことに2週目はキャンセルとなり謎を解くことはできなかったが、やはりWeekend1にFrank Oceanを観ることができて本当に良かった。本人がステージから去ったあと、キーボードの人からの「The show is over」という言葉に多くの人が「NOOOO!!!!」と叫んでいたが、結果私たちはFrank Oceanを観ることができて満足している。いつか彼がまた人前でパフォーマンスをしたくなるときが来たら寛容に受け止めてほしい。

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まとめ:進化するエンタメフェス=コーチェラ

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