レポート

ファイナリストから振り返る「BAZOOKA!!! 第10回高校生RAP選手権in日本武道館」レポート

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現在、過去に類を見ないほどの盛り上がりを見せている日本のHIP HOPシーン。その中でも特に大きなムーブメントになっているのがフリースタイルバトルだ。そして、このフリースタイルバトル人気の立役者といっても過言でないのが、2012年からスタートした「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(以下、ラップ選手権)だ。

そんな「ラップ選手権」も、ついに10回目に突入。記念大会となった今回(8/30開催、10/15 23時再放送)は、これまでの高校生が予選から勝ち上がって本大会に出場する方式とは異なり、過去大会の優勝者5名に人気投票上位11名を加えた16名で争う大会初のオールスター戦。さらに会場は、記念大会にふさわしい舞台となる日本武道館(日本武道館でフリースタイルバトルが行われるのは史上初!)。「ラップ選手権」史上最大規模の会場となったが、チケットは即ソールドアウト、当日は開場前から多くのヘッズたちが日本武道館に集まり、その人気を見せつけることとなった。今回は、熱戦が繰り広げられたこの一夜を、じょうT-Pablowという二人のファイナリストの試合を主軸にレポートする。

Aブロックファイナリスト・じょう

じょうは大阪府東住吉区出身のラッパー。中学生時代にいじめにあいながらもラップに出会って克服したというバックボーンを持つ彼は、第6回大会に出場。2回戦で敗退するも独特の言葉選びのセンスとフローで異彩を放ち、今大会の人気投票で9,621票を集めて第8位で出場を決めた。前回の出場からの1年半、葬儀屋に就職するも辞め、活動をラップ一本に絞ってきたじょう。様々な大会に出場して好成績を残し、しっかりと状態を仕上げた形で今大会に臨むこととなった。

1回戦 VS 写楽

1回戦の相手は第9回大会ベスト4であり、同じくラップでいじめを克服した経験のある写楽。同じいじめられっ子というバックボーンを持つ者同士、どちらのスキルが上なのかを競い合う好試合となった。試合中にヒューマンビートボックスを繰り出す変幻自在な写楽に対し、確実に韻を踏みながら試合を進めるじょうは、『いじめられっ子 そんなのマイク持ったら関係ねえよ マイクを持ったらいじめっ子 写楽を吊るし上げる七面鳥』というパンチラインでとどめを刺し、勝利を掴んだ。

2回戦 VS YZERR

続く2回戦の相手は、第5回大会優勝者にして、大会屈指の人気を誇るT-Pablowの双子の弟であるYZERR。川崎の工業地帯出身であり、札付きの不良であったYZERRに対し、元いじめられっ子が戦いを挑むという、お互い過去の立場をぶつけ合うという構図が生まれた形となった。威圧的なリリックを交えながら『お前の相手なんて肩慣らし』と潰しにかかるYZERRに対し、『俺のことを肩慣らし?じゃあなんで延長になってるのかなぁ?』と核心をついたリリックを返したことで、元いじめられっ子が元不良をくだした。

準決勝 VS 言×THE ANSWER

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準決勝の相手は人気投票1位であり、優勝候補と名高い言×THE ANSWER(以下、アンサー)。早口もフローも両刀使いできる高いスキルに、韻を踏みながらも的確に相手のリリックに応えていく強敵に対してじょうは、アンサー自身の十八番となるフローをサンプリングして煽りをかける形で会場中を沸かせて勝利。大方の予想を裏切り、決勝進出という偉業を成し遂げた。

Bブロックファイナリスト・T-Pablow

もう一人のファイナリスト・T-Pablowは神奈川県川崎にある工業地帯出身のラッパー。自ら出身地を”ゲットー”と呼ぶ通り、お世辞にも治安がいい地域とは言えず、彼自身も札付きの不良だったことを公言している。そんな彼は第1回大会に出場して優勝。その後、2大会の空白期間を経て出場した第4回大会でも優勝し、”絶対王者”として君臨。その後は、弟・YZERと2WINを結成したり、人気番組「フリースタイルダンジョン」の最年少モンスターとして出演したりと、まさに”ラップ選手権の顔”となった。どん底の状況を抜け出すきっかけとなったラップ、そして「ラップ選手権」には並々ならぬ想いを持っており、過去の経歴とラップに対するストイックな姿勢が相まって、周りを寄せ付けない雰囲気をまとっていることも彼の魅力の一つだ。

1回戦 VS EINSHTEIN

1回戦の相手は第5回大会でT-Pablowが唯一の負けを喫しているEINSHTEIN。1回戦の対戦カード決定(出場選手の指名制)時に、T-Pablowの指名で行われた本試合は、彼のパンチラインで多用されるの”勝利の女神”の取り合いとなった。EINSHTEINが『勝利の女神を寝とるぞ』と煽れば『お前が寝取れるような勝利の女神なら 今してやるよ離婚調停』『お前の抱ける勝利の女神なら婚約解消』と返して、延長戦にもつれ込むも見事勝利の女神を勝ち取ることになった。

2回戦 VS MCニガリ☆赤い稲妻

今大会で最も物議を醸すことになったのがこの試合。相手となるMCニガリ☆赤い稲妻(以下、ニガリ)は、第6回、7回大会優勝者であり、T-Pablow以外では唯一2度の優勝を成し遂げている強敵。今大会の優勝候補同士の対戦ということもあり、2人が向かい合った瞬間から会場は異様な熱気に包まれた。先攻をとったT-Pablowが仕掛けたのは、”おじいちゃん子で純粋”というニガリのイメージを覆すかのようなプライベートの暴露。それに対して、ニガリは一瞬呆気にとられたような表情から憮然とした表情に変わり、『そんなこと楽屋で言ってくれ』と言わんばかりに怒りのライムを吐き出す。その後も、一触触発の雰囲気は拭えず、試合終了後には会場は騒然とした雰囲気に包まれた。『私怨にまみれて試合もへったくれもない』という小籔千豊の異議もあり、延長戦が行われた結果、T-Pablowが勝利することとなったが、ニガリの態度からは憮然としたものが消えず、後味の悪い試合となった。しかしながら、試合という形式を超えて私怨をぶつけ合うことは、現場では時折起きるものであり、フリースタイルバトルのオーバーグラウンドとアンダーグラウンドの境目を感じさせる印象的な一戦となったことは付け加えておく。

準決勝 VS Icerey

準決勝の相手は地元・川崎の後輩であるIcerey。第7回大会出場後、スキルを磨き続け、準決勝まで勝ち上がってきた後輩・Icereyは、先輩相手に若干の緊張を帯びた雰囲気。そこを見抜いたかのように『そもそもラップ選手権自体俺が盛り上げたコンテンツ』『フローのなさ プロとアマの違いわからせる 苦労の差が出てる』とパンチラインを叩き込み圧倒。先輩越えの難しさを思い知らせた。

決勝戦 じょう VS T-Pablow

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元いじめられっ子と元不良のHIP HOPスターの対決。決勝戦がこの組み合わせになることを誰が予想しただろうか。驚きと熱気の大歓声に包まれた会場の中、決勝戦の火蓋が切って落とされる。これまで「ラップ選手権」決勝のビートは、日本のHIP HOPにおける重要曲が使われてきたが、この日DJが蹴ったトラックはEMINEM「Lose Yourself」。ラップで大逆転をカマすことを歌ったこの曲は、まさにこの日の舞台におあつらえ向き。

まず先攻のじょうが『一言だけ言わせてくれ この世に自分の力で立てるステージなんて1つも存在しねえ 勘違いしてるこいつを存在否定 8,000人の前で公開処刑!』と畳み掛ける。『俺は自分の力で武道館に立ちたい。他人の力で武道館立って嬉しいとか言ってる奴らには負けない』というT-Pablowの過去の発言に対して、『驕るな』とアンサーを返すことで一気に勝負はヒートアップする。T-Pablowが『もしも出来レース?だったとしてもそれすら俺にしかできねえ』と格の違いを見せつけようとすれば、じょうは『川崎ゴミ屑 しょんべん垂らし』と煽り返し、睨むT-Pablowに対して『ほらほら またまた悪いところ出てるで睨むだけ ほら自分の弱さに気が付かねえ』と足元をすくう。結果として、今の状況にどこか居心地の良さを感じてしまっていたT-Pablowの核心を突き続けたじょうが、大番狂わせの優勝を掴むこととなった。

「ラップ選手権」が生んだモンスターに区切りをつけた第10回大会

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フリースタイルバトル人気がまだ下火だっだ頃、ラップに明け暮れるティーンにスポットライトを当てる形で始まった「ラップ選手権」。そして、その「ラップ選手権」が生んだのが、”ラップを武器に自らの力でのし上がった元不良”で、見た目もかっこよく誰しもが憧れるかっこいいラップスター・T-Pablowであった。出場しなかった大会も多けれど、ここまでの大会はやはり彼が作ってきた大会といっても過言ではない部分があったのではないだろうか。そして、そんな彼を、10回目という節目に”元いじめられっ子で文系”という、全く異なる出自のじょうが倒したことで、「ラップ選手権」のひとつの時代が終わり、第11回大会から、真の意味で新しい大会が始まっていくのではないかと思う。今回、優勝を掴んだじょうは、これをきっかけに大きく羽ばたくチャンスを得たに違いないし、悔しくも準優勝に終わったT-Pablowも今後の活躍にフィードバックできる大きな気付きがあったに違いない。

これまで、シーンを盛り上げ、多くのスターを生んできた「ラップ選手権」は、今後も新たなスターやシーンを生み出していくに違いない。次回は東北で開催されるとのことなので、今後の動向も要チェックだ。

Text by Ai_Tkgk
Photo by BSスカパー! BAZOOKA!!! 第10回高校生RAP選手権in日本武道館

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BSスカパー!BAZOOKA!!!第10回高校生RAP選手権 in 日本武道館

放送日:2016年10月15日(土)23時~ ※再放送
出演者:小籔千豊、眞木蔵人、レイザーラモン RG、紗羅マリー、秋元梢、立花亜野芽 ほか
チャンネル:BS スカパー!(BS241/プレミアムサービス 585)
特設サイト:http://www.bs-sptv.com/bazooka/rap/

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